プロ野球コーチが語ったパラ競技「独特の練習法やトレーニングなどは野球に共通するものもある」

パラリンピックシンボルマークのスリーアギトス

【広瀬真徳 球界こぼれ話】新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない中、先週からパラ五輪が開催されている。

今月上旬まで行われた東京五輪同様、パラ五輪も開催までには賛否が渦巻いた。首都圏はコロナによる重症患者が今も増加傾向にある。その最中に大イベントを続けざまにやる必要があるのか。都民という観点から見ても何が正しいか明確な答えはない。

それでも個人的にはどんな形であれパラ五輪を開催してほしい気持ちが強かった。その理由は一つ。出場する選手が困難を克服する力をわれわれに与えてくれるからである。

何年も前になるがパラ五輪競技の取材を一通りさせていただいたことがある。当時は各競技のレベルや通常五輪と比べパラ五輪に周囲を熱狂させるほどの面白さはあるのか、先入観を含め疑心暗鬼のまま取材現場に赴いたことを今も覚えている。

だが、実際に競技を目の当たりにするとそれまでの思いは一変した。

視覚障害にもかかわらずタンデム自転車で平然と疾走する選手がいるかと思えば、車いすを自由に操り健常者の強豪と激しいラリーを繰り返すバドミントン選手。実戦練習に参加させていただいた車いすラグビーでは、激しい衝突の連続にいろいろな意味で衝撃を受けたほど。すべての選手が何らかのハンディを持ちながらも懸命に競技に取り組む。その姿を見るたびにいや応なく心が揺さぶられ、取材後の帰路は決まって「五体満足の自分は日々、全力で物事に取り組んでいるのか」。自問自答を繰り返したのは言うまでもない。

あるプロ野球のコーチと先日話した際も「ハンディのある人たちの競技に向き合う姿勢や努力には目を見張るものがある。しかもハンディを克服する独特の練習法やトレーニングなどは野球に共通するものもあるから、プロ野球選手の中にも競技に興味を持つ選手は結構いる」と話していた。

各国のスター選手や世界記録保持者が集まった東京五輪とは異なり、パラ五輪はまだ地味なイメージがあるかもしれない。テレビ中継も通常の五輪に比べればNHKを除き圧倒的に少ない。それでも競技を観戦する中で、生き方を含め「何か」を再認識させてくれるのがパラ五輪。閉会式まで残り1週間。開催可否は承知のうえで最後まで注目したい。

☆ひろせ・まさのり 1973年愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。

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