資産運用にありがちな誤解「パッシブ運用はアクティブ運用よりも有利?」果たして実際は…

パッシブ運用とアクティブ運用のどちらがより高いリターンを期待できるのでしょうか。現状、パッシブ運用の方が有利という声も多く、投資信託会社はローコストなパッシブ運用のファンドを次々に立ち上げていますが、果たして実際にはどうなのでしょうか。


アクティブ運用とパッシブ運用

投資初心者の方も読まれるかと思いますので、まずパッシブ運用とアクティブ運用の違いについて、簡単に触れておきます。

パッシブ運用はあらかじめ設定されたベンチマークに対して、それと同程度の成果を目指したポートフォリオを構築して運用する方法です。ベンチマークには東証株価指数(TOPIX)やS&P500といった株価インデックスが用いられるため、「パッシブ運用=インデックス運用」と思っていただいても良いでしょう。

一方、アクティブ運用はあらかじめ設定されたベンチマークに対して、それを上回る成果を目指したポートフォリオを構築して運用する方法です。

たとえばTOPIXをベンチマークとする日本株アクティブファンドがあるとしたら、TOPIXが1年で10%上昇した場合、日本株アクティブファンドは同じ期間で15%値上がりする、逆にTOPIXが1年で10%下落した場合、日本株アクティブファンドは同じ期間で下落率を5%に止めるというイメージです。

アクティブファンドの運用者に求められるもの

このように文章だけでパッシブ運用とアクティブ運用を比較すると、何となくアクティブ運用の方が高いリターンを期待できるのではないかと思ってしまいがちです。確かに、「パッシブ運用が連動目標としているベンチマークを上回るリターンを目指す」のがアクティブ運用ですから、定義上はそう思うのも無理はないでしょう。

でも、運用の世界における常識は、「アクティブ運用はパッシブ運用に勝てない」というものです。

アクティブ運用の要諦は、銘柄選別にあります。市場平均に対する超過リターンのことを「アルファ(α)」と言い、これが得られる銘柄を探すのが、アクティブ運用を行う運用者の仕事です。

より多くのアルファを得るためには、他の運用者がまだ気づいていない有益な投資価値にいち早く気付いて投資する必要があります。そして、パフォーマンス競争をしている他の運用者に勝つため、アクティブファンドの運用者は日々、さまざまな情報に目を通し、有益な投資価値を探しています。

しかし、この20年で運用者を取り巻く環境は大きく変わりました。インターネットの発展によって、誰もがさまざまな投資情報を素早く、簡単に入手できるようになりました。

これによって、パブリックでありながら入手するのにちょっとしたコツがいるような情報の壁が無くなり、少なくとも公開情報に関しては、誰もが同じ条件で入手できるようになったといっても良いでしょう。つまり情報入手のスピードは、運用成績の優劣の決定要因たりえなくなったのです。

そうなると、アクティブファンドの運用者のパフォーマンスに差をつける要因は、「イマジネーション」の有無になります。たとえば同じ決算情報を見て、それをどう解釈するかの違いです。その他大勢の運用者とは異なる、ユニークな観点から情報を見ることのできる能力を持った人でなければ、一流のアクティブファンドの運用者になれません。

そして現状、そのような能力を持った運用者はそう大勢はいないでしょう。大半のアクティブファンドは、凡庸な能力しか持たない運用者によって運用されており、この手のファンドは運用にかけるコストが割高である分だけ、市場平均に負ける形になります。結果、平均値で比較した時、「アクティブ運用はパッシブ運用に勝てない」という現実に直面すると考えられます。

個人は優れた運用者を選べるか問題

では、「アクティブ運用はパッシブ運用に勝てない」のは万国共通の真理なのでしょうか。

これについては、案外そうでもないのではないかと考えています。

恐らく、マーケットが長年にわたって上昇し続けている株式市場であれば、アクティブ運用よりも、市場平均に連動するパッシブ運用の方が平均値で勝てる可能性が高いと思います。

アクティブ運用の場合、良い運用者とダメな運用者が混在していて、個人に優秀な運用者を選ぶ能力がない以上、当たり外れは半々です。その前提のもと、マーケットが長期にわたって右肩上がりなのだとしたら、下手なアクティブ運用のファンドを選ぶくらいなら、当たり外れとはほぼ無縁なパッシブ運用のファンドを選んだ方が、幾分かマシなリターンを得られる確率が高まります。

でも、それが通用しないマーケットもあります。たとえば日本などは、その典型例ではないでしょうか。

日本は今、人口減少社会の入り口に立っています。近い将来、人口が1億人を切るのも確実視されています。このまま人口が減少し続ければ、よほど抜本的な構造改革をしない限り、経済は縮小傾向をたどっていきます。

このような国の株式市場は、これから先、ニューヨーク・ダウなどのように力強く最高値を更新し続けるような状況にはならないでしょう。

もちろん、日本企業のなかにはグローバルを舞台にして、日本経済が縮小しようと、どうなろうと関係なく成長しているところもあり、この手の企業の株価は長期的に上昇する可能性はあります。

ただ、この手の企業が複数社あったとしても、株式市場全体から見ればごく小さな動きに過ぎません。一部に個別で株価が値上がりする反面、全体の株価動向を示す株価インデックスは横ばいで推移するという状況が、これからも続くと考えられます。

株価インデックスが長期的に横ばいで推移するとしたら、パッシブ運用は明らかに不利です。日本株を対象に運用するならば、運用者の銘柄選別能力を活かせるアクティブ運用が適しています。ただ、ここで個人が、本当に優秀な銘柄選別能力を持つ運用者を選べるのかという、別の問題が立ちはだかります。

それが出来るなら何も問題はないのですが、それが難しい、あるいは自信がないのであれば、次善の策として、これからも経済成長が期待できる国・地域の市場平均への連動を目指すパッシブ運用ファンドが良い、という判断が成り立つのです。

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