悪天候でレースがなくても、次世代ドライバーたちの躍進を印象づけた“雨のスパ”/F1第12戦

 3時間におよぶ赤旗中断の末に、たった2周のセーフティカー先導ラン。悪天候に見舞われた2021年F1第12戦ベルギーGPは、ドライバーたちが一度も戦わないまま終了した。レースはそれでも成立とみなされ、予選順位がほぼそのまま最終結果となった。

「レースをしない決断は正しかったと思うけど、ポイントに値する気はしない」と、6位入賞のピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)。3位表彰台のルイス・ハミルトン(メルセデス)は、もっと辛辣だった。

「最後に僕らを送り出したとき、彼らはこれ以上天気が好転しないと分かっていた。すべてがお金ありきのシナリオだった。2周を走った僕らは、全員お金を手にした。だったら辛抱強く待ち続けたファンも、チケット代金を返されるべきだ」

 一方で『優勝』したマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は、「僕が『レースできる』と無線で伝えたタイミングで再開するべきだった。絶好の機会を逃した」と、違う論点からFIAの決断を批判した。

2021年F1第12戦ベルギーGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)

 しかし、ほかのドライバーたちはセーフティカーに追従する速度ですら、水しぶきで先行車のテールランプが見えなかった。これまで雨のスパ・フランコルシャンで起きた数々の重大事故を想起するまでもなく、あの決勝日は最初からレースできるコンディションではなかったといえる。

 フェルスタッペンがレース再開に強くこだわったのは、勝つ自信があったからに違いない。水しぶきの影響を受けないポールポジションが、絶対有利だったからというだけではない。週末3日間のレッドブル・ホンダのパフォーマンスが、終始メルセデスをしのいでいると感じていたからだった。

 典型的だったのが、2日目FP3で見せた圧巻の速さだ。初日のドライ路面用のセッティングから一転、この日はずっとウエット路面だったにもかかわらず、レッドブル・ホンダの2台はモンツァ仕様かと見紛うほどにリヤウイングを寝かせてきた。それなのにRB16Bは終始安定した挙動で、フェルスタッペン、セルジオ・ペレスがワン・ツーを独占。3番手のハミルトンに1秒以上の大差をつけた。

 それが予選では決勝日の悪天候に備えて、再びハイダウンフォース仕様に戻して臨んだ。対照的にメルセデス陣営は最高速重視のセッティングを変えなかった。その結果、ハミルトンは高速区間のセクター1、3で速さを見せたが、中速のセクター2でフェルスタッペンにおよばず3番手に終わった。

 予選後のハミルトンはローダウンフォースで雨の予選に臨んだことについて、「チームの方針だったけど、結果的に間違いだった」と、認めていた。

2021年F1第12戦ベルギーGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)

 そして決勝日は、予選の比ではないほどの完全ウエット路面だった。もしコンディションが改善してレースが開催されていたら、たとえハミルトンでもグリップ不足に苦しみ続ける展開になっていたことだろう。ひょっとするとフロントロウのジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)も抜けず、後方のダニエル・リカルド(マクラーレン)、セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)らにもかわされていたかもしれない。

 その意味ではレースを戦わずに3位表彰台を獲得し、しかもハーフポイントになったおかげでドライバーズランキング首位からの陥落をからくも免れたハミルトンは、今回もツキに恵まれたというべきだろう。

 雨のスパは、新世代ドライバーの躍進も強く印象づけた。「雨がいい」と開催前から言っていたランド・ノリス(マクラーレン)は、予選Q1、Q2でトップタイム。Q3でのクラッシュは不可抗力というべきもので、あれがなければフェルスタッペンとポール争いを演じていたはずだ。

 そしてフロントロウ獲得のラッセル。「失うものがないぶん、思いきって行った」と本人は言っていたが、戦闘力に劣るウイリアムズのマシンで2番グリッド獲得は、並みのドライバーにできることではない。

 びしょ濡れのQ1で最初から浅溝インターミディエイトタイヤを2台に履かせるなど、ウイリアムズの果敢な戦略も大いに光った。その結果が、前戦ハンガリーGPに続くダブル入賞に結実した。今季からチーム代表に就任したヨースト・カピートは、WRC世界ラリー選手権でフォルクスワーゲンを常勝チームに仕立て上げた名将だ。ウイリアムズ復活の日は、案外早く来るかもしれない。

※この記事は本誌『オートスポーツ』No.1559(2021年9月3日発売号)からの転載です。

2021年F1第12戦ベルギーGP ジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)
2021年F1第12戦ベルギーGP ランド・ノリス(マクラーレン)
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