初めての相続対策。相続税、生前贈与、遺書…キホンを知って早めの準備を

誰しも、やがては土に還るのが運命だと分かってはいても、近しい家族を失った時の悲しみは、立ち直るまでに相当の時間を要するものです。

そんな心模様とは裏腹に、「相続」に必要な各種手続きや「相続税」を納める期限は、思いの他すぐにやってきてしまうのが現実です。

そんな負担を少しでも軽減させるため、「終活」という言葉が今では一般的になってきました。

2018年7月、およそ40年ぶりに相続に関する法律が大きく改正されました。多くは2019年7月から施行されてます。相続に関する法律は非常に複雑で、自分に当てはまるのがどんなパターンなのか、調べるだけでも一苦労です。

「相続」と聞いただけで敬遠されそうな対策のうち、多くの人に関係するであろう主要な項目から、まずは何から始めれば良いか?のポイントを解説していきます。


40年ぶりの大幅改正。主な改正点のポイント

今回は、40年ぶりということもあって数々の改正がありましたが、主要な点をいくつか紹介します。

■配偶者居住権の新設

例えば、夫の死後も妻が「遺産である住居」に住み続ける場合、「遺産である現金」も受け取れる条件の幅が広がりました。

■パソコンを使って財産目録の作成が可能に

これまでは、「全て自筆・手書き」でなければならなかった財産目録が、パソコンで作成し印刷した書類に「自筆のサイン」をすることで、同様の効果が得られるようになりました。

■自筆の遺言書を法務局で保管することが可能に

これまで自筆の遺言書は自宅の金庫などに保管をするか、あるいは公証役場で、ある程度の手間と費用、時間をかけて作成し保管をしていたものが、今後、法務局にて自筆の遺言書を手数料3,900円で保管してもらえることで、選択肢が増えました。

■預貯金の仮払い制度の新設

これまでは相続の発生時(財産を持っている方が亡くなった時)、すぐに預金口座が凍結され、お葬式の費用や、当面の生活費を引き出すことができず、困ってしまうこともありましたが、この改正により、「遺産分割」が成立する前であっても一定金額までは引き出すことが可能になりました。

この他にも、例えば生前の被相続人(亡くなった方)に対し、介護や看病で貢献した親族が対価(金銭)を要求することが可能になるなど、今の時代背景を反映した、柔軟な改正が行われました。

相続対策の基本

(1)分割→(2)納税→(3)節税
相続対策とは何か? まず何をしなければならないのか?
そんなことを考える時、なんとなく 「相続税が掛からないような節税対策は?」など、真っ先に思い浮かばないでしょうか。

それを考える前に、以下の統計数字をご覧ください。

平成30年に亡くなられた方(被相続人数)は50,638人。
このうち、相続税の課税対象となった被相続人は3,388人。課税割合は、6.7%となりました。
国税庁 平成30年分の相続税の申告状況について

つまり、100人中 7人くらいが「相続税」の課税対象となりますが、93人くらいは「課税対象ではない」、つまり納税の必要がなかった、という数字です。

相続税には「基礎控除」といって、ある一定金額までは税金をかけなくてよい、という制度があります。例えば以下の通り。

法定相続人 3人(配偶者+子2人)
基礎控除額の計算式 3,000万円+(600万×法定相続人)
上記の場合3,000万円+(600万×3)=控除額4,800万円

極めて簡単に計算するならば、「相続財産が4,800万円以内」であれば、相続税は一切かからないことになります。

では、何のために対策をするのか? 以下の数字をみてください。

裁判所・司法統計による「遺産分割事件(裁判)となった遺産価額データ」※令和元年版

裁判所ホームページ(令和元年第52表遺産分割事件のうち認容を除く)―遺産の内容別

遺産分割で裁判になるケースとしては、「遺産価額1,000万円以下~5,000万円以下」が全体の 76.8% を占めている、という事実です。基礎控除額の適用額や課税対象 6.7%という数字と結びつけて考えるとどうでしょうか。

税金を払うか払わないか、という部分はほとんど問題ではなく、残された親族の間での揉め事の方が大事と思いませんか。

ところが、上記のように、「相続対策=節税」のイメージが先行して、本当に大事な部分を後回しにしてしまうケースが多くあります。その結果が、「遺産分割の法定争い」の数字に繋がっていると考えられます。

相続を争族(そうぞく)にしないために

(1)分割について

相続において、まず一番大事にしたいのは、被相続人(財産を残す人)がどのような考えを持っているのか?です。

話しにくい内容ですが、例えば、どんな葬儀にして欲しいか、どんな場所(お墓)に入りたいか。「誰にどんな財産を残したいのか」も含まれます。残された家族は、出来るだけ故人の想いを尊重したいと思うものです。いざ亡くなった後となれば、その想いを確認する代表的なものに「遺言書」があります。

自筆の遺言書を法務局で保管することが可能に

これまで自筆の遺言書は自宅の金庫などに保管をするか、あるいは公証役場で、ある程度の手間と費用、時間をかけて作成し保管をしていたものが、今後、法務局にて自筆の遺言書を手数料3,900円で保管してもらえることで、選択肢が増えました。

また生前のうちに、残したい相手に贈与を行う手段もあります。

一般的に「生前贈与」とは、相続財産を減らすための「節税対策」としても有効な手段になりますが、それは「遺産分割」としても機能します。加えて、「財産目録」を作成して、どこに、どのような財産が、どのくらいあるか、を棚卸しておき、事前に家族で話あっておけば、争い事を軽減できると考えられます。

パソコンを使って財産目録の作成が可能に

これまでは、「全て自筆・手書き」でなければならなかった財産目録が、パソコンで作成し印刷した書類に「自筆のサイン」をすることで、同様の効果が得られるようになりました。

なにより尊重されるべき本人の意思は、その本人が元気に暮らしている時にしか、確認をすることは出来ません

(2)納税について

上記で、相続税がかかるケースは100人中7人程度とお伝えいたしまいたが、「節税対策」をしたことで「納税」を回避した件数も当然、相当数あるでしょう。その際、まず確認しなければいけないのは、「我が家の相続では、相続税が発生するか否か」の確認です。

(1)でお話しした「財産目録」が必要になります。「財産目録」や推定相続人の数などから、相続が発生した場合の相続税額を事前にシミュレーションしておくことが重要です。相続税は、相続の開始があったことを知った日(通常は、相続人の死亡日)から10か月目にやってきます。

例えば、土地を相続した子が、10か月後、その土地に対する相続税を「現金」で払わなければなりません。その時、手元に現金を持っていなかった場合、とても困ってしまいます。
せっかく相続をした土地を売却して、作った現金で相続税を払う、といった本末転倒なことが起きないように、予め対策をしておく必要があります。

相続税と同額の保険金を受け取れるように、子が受取人となる死亡保険をかけておく、など。

後述、「節税」の対策には、ある程度の時間をかけて行う方法も含まれます。その対策の途中に、いざ相続が起こってしまい、目的の効果が得られぬまま、納税資金が枯渇するようなことが無いようにしなければなりません。

そのため、「財産目録」からシミュレーションを行った相続税がいくらになるか?を知っておくことは、何をするべきか?の目的を明確にする大事な材料になり、「節税」よりも先に考える必要があるでしょう。

(3)節税について

(1)と(2)の対策の後であれば、どのくらい節税をするべきか?の具体的な金額感が出てきているはずです。節税にはいくつか方法がありますが、そもそもの考え方は以下の通りです。

例えば、配偶者であれば、相続税の配偶者控除 「法定相続分の1/2 または 1億6,000万円のどちらか多い金額」までは税金がかからない制度などもあるため、上記の相続税額=全額を納税しなければいけない、ということではありませんが、「節税対策」とは、上記「遺産総額」の額を減らしておくことが、第一に考えられます。

遺産総額というのは、亡くなった時に残っている財産のこと。つまり、生前に誰かに贈与したものであれば、遺産総額にはならない、というのがポイントです。

生前贈与の方法はいくつかありますが、例えば以下の通りです。

(1)婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産の生前贈与が行われた場合、2,000万円まで控除(非課税)

(2)子どもや孫に対する住宅取得資金贈与(最大1,500万円)
(3)一人あたり 年間 110万円までの贈与税非課税枠を利用して、数年にわたり財産を減らしていく。
→ 相続人に対する贈与の場合、3年以内に行った贈与は「相続財産」に持ち戻しされてしまうため、「孫」などへの贈与が一般的です。

相続や贈与に対する法律は複雑で、ある人にとっては有効な手段が、ある人にとっては無駄だったケースも存在します。

今回は、各制度の細かな解説ではなく、相続対策についての基本的な考え方や全体像を伝えることを目的としました。それぞれの対策については、ぜひ専門家と一緒に考えて頂く機会を、積極的に作っていただきたいと思います。

いずれにしても、突然にやってくる相続によって、残された家族が「争族」にならないように、財産を残す人のため、受け取る家族のため、やるべき準備は早めに始めることを、お勧めします。

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