案山子ではもう古い?ドローンにアプリも 進化する鳥獣対策

鳥獣被害を取り巻く環境の変化と技術の進歩があいまって、ドローンやICTなどを活用した鳥獣対策が登場している

先日、新潟県上越市の田園風景の中に、今では見る機会がめっきり少なくなった案山子(かかし)を見つけた。案山子といえば、作物を荒らす鳥などの害獣を追い払うための田畑にたてる人形のことで、かつては鳥獣、とくに対策の切り札として活躍していた。だが、近年はクマやイノシシの目撃情報が増加し、農作物被害も増加する中、案山子では対応できなくなっているのが現状だ。そうしたなか、“現代版”の案山子とも言える、最新技術を駆使した様々な鳥獣対策が登場している。

新潟県鳥獣被害対策支援センターによると、昨年度の野生鳥獣による県内の農作物被害金額は約3億2,000万円で、前年度比30%増だった。また、これまで全体の被害金額のうち、過半を鳥類による被害が占めていたが、昨年度は全体の約58%を獣類による被害が占めるようになったという。

こうした鳥獣被害を取り巻く環境の変化と技術の進歩があいまって、ドローンやICTなどを活用した鳥獣対策が登場しているのだ。

新潟県新発田市は、合同会社DMM.com(東京都)、DMMグループで農業関連2社目となる株式会社DMM Agri Innovation(東京都)と共同で昨年12月に市内で赤外線カメラを搭載したドローンを活用した野生動物の生息域や個体数を調査する実証実験を実施した。ドローンを100メートル以上の高さに上げて、赤外線で野生鳥獣を確認する作業を行なったもので、今後実用化されれば、ドローンオペレーターの雇用面などで地元企業にも参加してもらい、地域全体で野生動物対策に取り組んでいくという。

赤外線カメラで実証実験の参加者が集まった駐車場付近を撮影した映像

株式会社WorkVision(東京都、ワークビジョン)は、主に都市部の在住者が鳥獣対策を応援するための全国初のスマートフォンアプリ「ドットワナ!街わな」のテスト運営を2021年3月から開始した。プレイヤー(応援者)はアプリ内で、地域に設置されている鳥獣捕獲用の罠と連動した仮想的な「ワナ」を購入し、実際に地域での捕獲が成功するとポイントを獲得。そのポイントを貯めると地域の特産品と交換することができるというものだ。

このほか、株式会社うぃるこ(長岡市)では、「新型コロナウイルス対策で集合研修や県外からの移動が難しい」「勉強会を実施したいが時間も予算も限られている」という自治体や企業向けにオンラインの鳥獣対策講座を提供している。また同社では、集落環境や柵機能の診断事業などの診断事業で収集したデータ(被害場所、柵の場所、動物の種類など)を地図上に落とし込み可視化しているようだ。

一方で、県鳥獣被害対策支援センターでは、「家やごみステーションに生ごみを置かないようにするとか、畑に曲がったきゅうりを置いたままにしないなどの注意が必要だ」と里山に寄せ付けない工夫も必要だという。

同センターでは、空き家の柿などの放任果樹の増加や狩猟者の高齢化に加えて、鳥獣の生息域拡大・生息数増加などを背景に、短期的、中期的、長期的な取り組みに分類しており、短期的にはクマなどの生息状況の調査や、電気柵などの設置を推進する。

中期的には、麻酔銃の体制を整備するなどの捕獲強化のほか、研修の実施などによる捕獲の担い手の育成を進め、長期的には、クマなどが人里に来る場合に見分けが付くように、藪を刈り込むなどの緩衝帯(人と野生動物とを隔てる帯状の区域)の整備を進めるとしている。

ICTを活用した檻(新潟県鳥獣被害対策支援センターの資料より)

新潟県上越市内の案山子。憧憬を覚えるが、主役交代か?

(文・梅川康輝)

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