長崎・雲仙土砂崩れ 熱で変質、岩石も「粘土化」 八万地獄では前兆も 専門家「情報集め早く避難を」

発生直後の八万地獄の土砂崩れ。粘土化した土砂が流れ込んだ=雲仙市小浜町雲仙(8月13日午後6時54分撮影)

 記録的な大雨による土砂崩れで親子3人が犠牲となり、観光の目玉の地獄も被害を受けた長崎県雲仙市小浜町の雲仙温泉街周辺。土砂崩れが起きた背景にはどんな要因があったのか。地質や地形の専門家に話を聞いた。
 雲仙では8月13日未明、小地獄地区で土砂崩れが起き民家2棟が押し流され3人が死亡。同日夕、約1キロ離れた八万地獄地区でも土砂崩れが発生した。雲仙岳では降り始めの11日から13日午後6時までに、8月1カ月間の平年値の2倍を超える818.5ミリの雨を観測。特に12日には1時間81.5ミリの猛烈な雨を記録していた。

小地獄に流れ込んだ土砂。大きな岩石が少なく粘土化していた(8月26日撮影)

 雲仙温泉街は気象庁の常時観測火山の一つ、雲仙岳(普賢岳などを含む山地群)の一角に位置する。火山地質が専門の長井大輔・雲仙岳災害記念館(島原市)学芸員によると、火山地帯に見られる火山灰を多く含んだ土壌は、染み込んだ雨水などが排出されにくく、土中にとどまって重くなる。また、火山ガスの噴気や温泉の熱などで周囲の岩石も変質してもろくなり「急斜面などは雨が降り水分を含むと土砂崩れが起きやすい」と指摘する。
 14日から現地入りした長崎大大学院の蒋宇静(ジャンイジン)教授(地盤防災工学)も「(土砂に)大きな岩塊がなかった。熱で岩石が粘土化している」と話す。粘土はある程度までは水を保持できるが、強度が弱いため一度水が噴き出すと一気に崩れてしまうという。
 さらに、蒋教授によると、温泉街周辺の山肌にはえぐられたような地形が複数あることが分かった。「過去の土砂崩れの形跡と推測される。(この辺りは)どこも崩れる可能性があった」。こうした地質や地形は小地獄、八万地獄の双方に共通している。

雲仙岳の累積雨量

 3人が亡くなった小地獄では1972年にも土砂崩れが発生している。その後、周辺には砂防ダムが設置されたが、今回の土砂崩れを食い止めることはなかった。蒋教授は、ダムは「今回崩れた斜面よりさらに上部の急斜面から崩れる土石流を止める目的」で整備されたとみている。
 八万地獄では土砂崩れの前に鉄砲水と悪臭の発生といった前兆現象が確認されている。蒋教授は日ごろから土砂災害に関する知識や危険な区域に関する情報を収集し、気象警報を見ながら早めに自主避難するべきと呼び掛けている。「避難して何も起きなくても『空振りでよかった』と考えるのがよい。今まで崩れていないから大丈夫と思い込んではならない」


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