「長崎県観光 従来ない手法で変革を」 長崎自動車常勤顧問・平家達史氏 前日銀長崎支店長

「コロナ収束後、いかに長崎の取り分を多くするか」と話す平家氏=長崎市新地町、長崎自動車本社

 前日銀長崎支店長の平家達史氏(56)が日銀を退職し、長崎自動車(長崎市)常勤顧問に就いた。支店長在任中は、地元の経済界や行政に積極的な提言をするなど存在感を示した。長崎バスグループは新型コロナウイルス禍後を見据え、観光事業のてこ入れを図ろうとしており、その招請を受けた平家氏に、本県基幹産業の現状分析や再興に向けたビジョンを聞いた。

 -「青い海、青い空、おいしい食材など『魅力の宝庫』である本県を『魅力の倉庫』にしないよう今後も磨きを掛けてほしい」。2年前の退任会見でそんなメッセージを県民に残した。なぜ地縁の無い長崎を「第二の人生」の場に選んだのか。
 理由は三つある。まずは「人」。「今のままでは長崎は衰退する」との危機意識を持った多くの方々と出会った。「戻ってこないか」と声を掛けていただき、お役に立てればと考えた。
 二つ目は「変化」。長崎市で「100年に一度」と言われるほど、大きなプロジェクトが同時進行している。MICE(コンベンション)、新幹線、市役所新庁舎、新長崎駅ビル、スタジアムシティ、松が枝埠頭(ふとう)2バース化、県庁跡地-。ただ立派な“箱庭”を幾つ並べても“庭園”にはならない。庭園は調和や通路(アクセス)も重要な要素。点を線に、さらに面にしていくグランドデザインを描き、実行する必要がある。地方都市にありがちな「作って終わり」という残念な光景は見たくない。
 三つ目は「資源」。歴史、文化、自然、食のどれをとっても長崎は魅力の宝庫。だが「たくさんあるよ」と一方的なPRにとどまっている。いったん棚卸ししてストーリーを整理し、観光客や消費者のニーズに合わせて提供したい。

 -課題をどう捉え、解決していくのか。
 せっかくの魅力が県外や海外で認知されていない。東京でもおいしい長崎の魚を食べられるが、消費者は長崎産を積極的に選んでいるわけではない。ジャガイモも質は北海道に負けないのに、ブランディングで差をつけられている。もったいない。これまでの延長線上の施策では長崎の良さを認知してもらえない。
 こうしたギャップを埋めるための実動部隊として、地域商社・DMCを組成したい。長崎国際観光コンベンション協会など国内各地のDMO(観光地域づくり推進法人)は、ブランディングやプロモーションが主な役割。DMCは実際に旅行商品を販売する法人で、国内に幾つかあるが、県域を対象とし、十分な成果を上げているものはない。長崎で先行させたい。
 埋もれた魅力をしっかりアピールするには、地元をよく知る事業者が着地型観光商品をつくった方がよい。幸いにも長崎はまだ、大企業を中心とした金太郎あめのような個性がない都市にはなっていない。ただ裏を返せば、他都市と比べ事業者の規模が小さい。それぞれの得意分野をまとめてワンストップで提供する機能が必要だ。

 -具体的にどんなワンストップ化を考えているか。
 例えば、自治体、協会、事業者がおのおので発信している情報の集約と着地型観光商品の提供。さまざまなサービスの予約も決済もキャンセルも一括して受け付け、手間を取らせない。食のショーウインドーとしての「長崎グルメ館」があっていい。
 長崎バスグループは出島和蘭商館跡の活性化を図っており、長崎市内の観光ルートバスも11月にリニューアルする。ただ、こうした施策を県全域で各事業者がばらばらに行っても、現状は変えられない。産官学金がアイデアを持ち寄り、市民の意見も採り入れながら協働することが必要だ。

 -コロナ禍の収束が見えず、観光を推進しにくい状況にある。
 アフターコロナに向け、弾を込める時期。新幹線の暫定開業が来年に迫り、待ったなしといえる。観光業はもっと稼ぐ余地がある。コロナで抑えられた旅行需要が戻るタイミングを逃さず、スタートダッシュできるようにしておきたい。

 -MICE施設「出島メッセ長崎」は11月に開業。他県との競合に勝ち、収益性の高いイベントを誘致できるか。
 日本最西端で大都市と渡り合うには、学会などを終えた参加者が街に繰り出す「大人の社会科見学」で、どれだけもてなせるかが問われる。関連ビジネスを東京や福岡の事業者に奪われないよう、長崎市がイニシアチブを取って誘致情報を地元にもっと提供し、受け入れ態勢を早く整えるべきだ。(周辺に進出する)外資系ホテルの客は目も舌も肥えている。世界標準の観光地に脱皮してほしい。

 -観光施策を大胆に変えた方がいいのか。
 県外の大多数の人が持つ長崎のイメージは「ハウステンボス」「カステラ」「ちゃんぽん」。奇をてらう必要はなく、その他の豊富な魅力も大切にしつつ、これまでにない方法で非連続な変化を遂げ、県外や海外の人々に「変わった」と認識してもらわなければならない。
 長崎は今、大変革の時。私は「ナガサキ グレート レボリューション」を合言葉に皆さんと議論を深め、残りの人生をささげる覚悟で腰を据えて取り組んでいきたい。

 【略歴】へいけ・さとし 京都市出身。滋賀大経卒。89年日銀入行。地域金融機関の経営を調査・分析・指導する本店金融機構局金融第2課長などを歴任。18年3月~19年8月、長崎支店長を務めた。預金保険機構出向を終え、今年6月に日銀を退職、長崎自動車に入社した。長崎経済研究所シニアアドバイザー。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。

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