資産運用にありがちな誤解、長期投資は損をしない?本質を考える

「長期投資をするとリスクが小さくなる」とよく言われます。果たしてそれは本当でしょうか。今回は長期投資の有効性について考えてみました。


リスクは損をしないこと?

長期投資をすると、何となく損をしなくなるって思っていませんか。「損をしなくなる」とまでは思わなくとも、「損する危険性が小さくなる」と思っている人はとても多いかも知れません。

でも、これは明らかに誤解なので、そう思っている人は注意してくださいね。

金融機関のホームページで投資信託に関して書かれている説明文などを読むと、「保有期間を長期にすることで、一般的にリスクを抑えることが出来ると言われています」などと書かれています。

この一文を読んで「あ、それなら投資信託を買って長く持てば損をしないんだね」と思った人は要注意です。なぜなら、ここで使われている「リスク」という言葉は、損をしないことを意味しているのではないからです。

投資の世界において「リスク」は、値動きのブレを示しています。つまり1年間で10%儲かることもあるけれども、逆に8%損する恐れもあるという、このブレのことをリスクと言います。

そして、実際に投資をして儲かるのか、それとも損をするのかは誰にも分かりません。投資信託に限らず株式投資でもFXでも、およそ「投資」と名の付くものはすべて同じです。

「平均のマジック」に騙されるな

では、なぜ長期投資をするとリスクが小さくなる、つまり価格のブレが小さくなると言われるのでしょうか。

たとえば東証株価指数を1999年11月末から2019年11月末までの月末値ベースで見た場合、運用期間を1年にした場合のブレは、+65.0%~-45.4%ですが、運用期間を10年にすると+10.1%~-5.3%までブレが縮まります。

運用期間1年については、1999年11月末から2000年11月末まで運用した時の騰落率、1999年12月末から2000年12月末まで運用した時の騰落率、2000年1月末から2001年1月末まで運用した時の騰落率というように、1カ月ずつずらして騰落率を計測し、そのなかの最高値と最低値を探すと、+65.0%~-45.4%という数字が出てきます。

次に運用期間10年の場合ですが、これは1999年11月末から2009年11月末までの10年間運用した時の騰落率、1999年12月末から2009年12月末までの10年間運用した時の騰落率、というように1カ月ずつずらして10年間の騰落率を計算するという作業を2019年11月末まで続けたうえで、各期間中の最高値と最低値を10年で割って年率平均を計算し、その中の最高値と最低値を探すと、+10.1%~-5.3%という数字が出てきます。

これは「平均のマジック」といってもよいでしょう。

投資期間が1年よりも10年、10年よりも20年、20年よりも30年というように長期になればなるほど、平均年率を計算する際の分母が大きくなるのですから、計測期間中に相当程度の下げが生じたとしても、ある程度、下落率は均されます。たとえば10年間運用した結果、-50%の期間があったとしても、これを10年で割れば年平均の下落率は-5%になります。

残りの人生で損をリカバーできますか?

しかし、「運用期間が長期になるほどブレが小さくなる」というのは、平均値で見ているからです。それは机上の空論といってもよいのかも知れません。実際の運用に際しては、10年にわたって運用したにも関わらず、元本が半分に減ってしまったという期間にぶつかることも、十分に想定されるのです。

ここで、個人の資産運用に際してはもうひとつ大きな問題にぶつかります。それは、誰しも寿命があるということです。

たとえば70歳になるまで運用を続けて、運用資産が2,000万円になったとします。「2,000万円問題はこれでクリア」ということで安心した直後、リーマンショック級の株価暴落に見舞われたらどうなるでしょうか。あの時、株価は50%以上も下落しました。もしリスクポジションを持ったままだとしたら、2,000万円の運用資産が1,000万円に目減りしてしまうことも十分に考えられるのです。

不幸にしてこのような状況に直面したら、相当に残念なことになります。チャートを見るとよく分かりますが、下げは一瞬の出来事でも、相場が上昇に転じて前回付けた高値を抜くまでには、相当の時間を必要とします。つまり70歳で暴落に直面して運用資産を大幅に減らしてしまったら、恐らく残りの人生でリカバーするのは不可能かも知れません。

直近のコロナショックでも、株価は大きく下落しました。マーケットは数年に1度の頻度で、必ず大きな暴落に見舞われます。投資信託などで老後資産を運用している人は、常にそういうリスクがあるのだということを認識しておく必要があります。金融機関や運用会社のホームページなどに掲載されている、「長期投資するとリスクは小さくなります」といった甘言に騙されないようにしましょう。

ほったらかし投資のススメは罪

「ほったらかし投資が良い」などと言う人もいますが、これは恐らく違うと思います。

確かに値動きを見ると、ちょっとした値上がりで利益を確定させたくなりますし、値下がりするとハラハラしてしまうという気持ちは分かります。だからほったらかし投資ということなのですが、これは単なる「現実逃避」です。

自分の保有資産が今、どうなっているのかを知らずに対策を立てることはできません。ほったらかし投資を推奨する人は、その対策すら講じずに、ひたすら積み立てていれば将来、果実が得られると言うのかも知れませんが、投資の世界はそんなに甘くはありません。暴落に直面すれば、資産は確実に減るのです。

下げ相場に直面した時、自分が今、行っている投資が正しいと判断するならば、そこで追加資金を入れるべきですし、想定していた当初のシナリオから状況が変わってしまったと思うなら、利益が相当程度目減りしたり、損をしたりしていたとしても、解約もしくは売却して逃げることも考える必要があります。

非常に難しい判断ですし、下した決断が必ず奏功する保証も全くありません。でも、それが投資なのです。それは投資対象が株式でも投資信託でも、FXでも同じです。現実を直視したうえで、その判断を下す勇気を持てないのであれば、投資などには手を出さない方が無難です。

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