タイヤを“元に戻した”ARTA NSX GT3がセクター4を武器に狙う逆転勝利。GT300上位勢の動向を探る【第5戦予選あと読み】

 スーパーGT第5戦予選でポールポジションを獲得したのはSUBARU BRZ R&D SPORT。今季3度目と圧倒的な速さを見せつけてはいるが、決勝に向けては不安を抱えているのも事実。もし鈴鹿と同じように決勝ではポジションを落とすようなことがあった場合、誰がGT300のトップを争うことになるのだろうか。

 さまざまな要因が絡むことから予想は難しいが、有力候補としてはARTA NSX GT3を推したい。今回、特筆すべきはそのタイヤである。

 2019年は予選2番手から優勝と、NSX GT3+ブリヂストンのパッケージは、SUGOとの相性も良さそうだ。高木真一によれば、ARTA陣営としては前戦鈴鹿、そしてここSUGOで連続大量ポイント獲得を狙っていたという。

 しかし、鈴鹿ではタイヤで新たなトライをしていたことが裏目に出て、もてぎ戦に続いて予選下位に沈んでしまった。

 鈴鹿の公式練習は雨上がりのコンディションで始まり、路面が出来上がるのが遅かった。その時に持ち込んでいたタイヤは、厳しい路面コンディションでは機能しなかったという。決勝では挽回することができたものの、今回の第5戦SUGOに向けては「タイヤを元に戻して」(高木)挑んだ。SUGOの公式練習もいい路面状態からのスタートではなかったが、今回はしっかりとタイヤが機能し、2番手で朝のセッションを終えていた。

 しかし予選Q1では、予想外のトラブルが高木を襲う。

「ABSのエラーが出てしまって、踏んだら“キャン!”ってロックして。車内のボタンとかではリセットできなかったので、いったんピットに入ってシャットダウンし、ロギングしてPC上でリセットしたらアラームが消えたみたい」と高木。

 すぐさまコースへと復帰した高木だったが、セッション残り時間はわずかだった。

「本来、SUGOは右フロントが温まりにくく、そこを丁寧に温めないとバランスが取れない。けど、そんなことやっている場合じゃないので、最初から全開。バランス取りは難しかったけど、とりあえずQ1突破できてよかったですよ」

 本来チームは、高木のコメントを聞いたうえで、Q2担当の佐藤蓮向けにマシンをアジャストすることを考えていたが、満足の行くアタックとはならなかったため、アジャストの方向性が定まらなかったという。しかし佐藤もミスなくアタックをまとめ、5番グリッドを確保した。

「(1分)17秒台には入れたかったんですが」と予選を振り返る佐藤は、並行して参戦するスーパーフォーミュラ・ライツでもツインリンクもてぎ戦で3連勝を飾るなど、このところ上り調子。「前回の鈴鹿でもたくさんオーバーテイクしましたし、僕もいまいい波に乗ってきていると思うので、そこから落ちないように、この流れを維持したいと思います」と語っている。

 決勝に向けては高木、佐藤ともに「ロングランにはかなり自信がある」と言い切る。

「ヨコハマ勢は結構強いという話も聞いているので、そんなに簡単なレースにはならないと思いますが、僕らは朝からセクター4がずっと速く、決勝での1コーナーでのオーバーテイクを考えるとすごくポジティブ。他の車両よりはオーバーテイクが楽かもしれません」(佐藤)とロングランペース以外にも好材料を手にしている様子だ。

 この他、決勝の動向が気になるグリッド上位勢数台にも話を聞くことができたので、下記にまとめておこう。

高木真一(ARTA NSX GT3)

■「予選7番手はまぁまぁな結果」と初音ミク AMGの谷口信輝

 まずはサクセスウエイト(SW)69kgで予選3番手に入ったSYNTIUM LMcorsa GR Supra GTの吉本大樹。BRZと同じくダンロップを履くが、「予想していないポジション。でも、自信はないですよ」と語る。

 決勝日は気温・路温が上昇することが予想されるが、そうなるとヨコハマ勢が強さを発揮するのでは、と吉本は予想している。

「トップとの間にヨコハマの18号車(UPGARAGE NSX GT3)がいるので、やっかいだなぁと。僕らも、前2戦と比べると悲惨な状態ではないですけど、明日になってみないと分からない、という要素が大きい。おそらく、61号車(SUBARU BRZ R&D SPORT)と同じような状況だと思います」

 予選4番手には、吉本の恐れるヨコハマユーザーである、JLOC ランボルギーニ GT3(SW66kg)がつけている。

 Q2でのアタックを担当した小暮卓史は、「重くなってきているんですが、SUGOでは悪い方向には行っていないと思います」と語る。今回のタイヤのフィーリングは「しっかりしていて、ロングランでもいいイメージ」だという。

「自信はあるんですけど、いい意味で裏切られたことも、悪い意味で裏切られたこともあるので……(苦笑)。このウエイトで、どこまでコンスタントに走れるかは気になりますけど、そこはウチ(JLOC)とヨコハマさんの強みとしている部分なので、それを活かせればと思っています」

「優勝は狙いたいですけど、それなりのポイントをとっておけば、タイトル争いも有利になるので、明日は確実に行きたいですね」

 その小暮の後ろには前述のARTA NSX GT3、そしてJLOCの姉妹車グランシード ランボルギーニ GT3を挟み、グッドスマイル 初音ミク AMGがつけている。

「基本的には厳しいかなと思って来たけど、思いのほか良かった」と予選日を振り返る谷口信輝。

「我々のマシンの特性に合うサーキットでは、必ずJAF(GT300規定)勢が上にいるし、GT-Rも速い。いかに4〜7位あたりを獲り続けるかというのが僕らの戦いなので、そういう意味では予選7番手はまぁまぁかな」

 決勝に向けては、「そこそこのアベレージでいけると思う」と谷口。ただし、「サーキット的にも、クルマ的にも抜けないので、いかにピット作業を絡めて前に出るか。早めのピットになるとしたら、みんながタイムをドロップさせている間にいかに稼いで、みんながルーティンを終えた段階で少しでも前に出ている、といういつも通りの戦い方が必要かな」と語っている。

 決勝を得意とするヨコハマ勢、ブリヂストン勢に対し、一発の速さを見せているダンロップ勢がどこまで粘れるのか、という争いにもなりそうなSUGOの決勝。気温やコンディションの変化とともに、予選までの勢力図が一気に塗り替えられる可能性もありそうだ。

2021スーパーGT第5戦SUGO SYNTIUM LMcorsa GR Supra GT(吉本大樹/河野駿佑)
2021スーパーGT第5戦SUGO JLOC ランボルギーニ GT3(小暮卓史/元嶋佑弥)
2021スーパーGT第5戦SUGO グッドスマイル 初音ミク AMG(谷口信輝/片岡龍也)

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