熱海土石流の教訓(1)泥にのまれた町 住民が感じた異変

土石流で被災した住宅。ベランダの柵がゆがみ、室内に土砂が流れ込んでいた=8月18日、静岡県熱海市伊豆山

 記録的な大雨が7、8月と相次ぎ、最も深刻な静岡県熱海市の大規模土石流から2カ月が経過した。神奈川でも土砂災害や河川の氾濫が発生し、たびたび危険が迫った。命を守る避難はどうあるべきなのか。

 「雨でこんなに大きな被害が出るなんて想像していなかった。でも、生まれ育ったこの場所から引っ越すことは考えていない」

 8月半ば、静岡県熱海市伊豆山地区のパート女性(44)は、泥にのまれて風景が一変したわが町で複雑な心境を吐露した。住み慣れた地域への愛着と、今後の暮らしに対する不安。大規模な土石流に見舞われた7月3日からしばらく自宅に戻れず、避難生活を余儀なくされた。

 標高約390メートルの逢初(あいぞめ)川上流部から海岸まで、川沿いの約2キロを一気に流れ下りた土石流。崩壊地点にあった大量の盛り土が問題視され、「人災」の側面が強いが、伊豆山に近い熱海市網代では、記録的な雨が観測されていた。

 6月30日から7月4日までの累積で432.5ミリ。平年の7月1カ月分の降水量の1.8倍近くに相当する量だ。

 夫と4人の子供、孫と暮らす女性の自宅は逢初川沿いの下流にある。泥が家の中に入り込むことはなかったものの、「駐車場まで土砂が押し寄せ、水道管が破裂するなどの被害が出た」。

 土石流が襲ってきたのは女性の出勤後だったため、目撃はしていない。一方、自宅にとどまっていた家族に後で聞くと、「これまで耳にしたことのないごう音が川から聞こえ、流れ方もいつもと違った」と発生直前の異変を感じ取っていたという。

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