「Soulmates」(1963年・RIVERSIDE) 人への思いが良い音に 平戸祐介のJAZZ COMBO・4

「Soulmates」のジャケット写真

 長崎は雨が似合う街ですが、梅雨は気分が少々沈みがちになるものです。今回は、そんな気分を和ませてくれる温かいエピソードが秘められたアルバム「Soulmates」を紹介します。
 1963年の録音で、演奏しているのはテナーサックス奏者ベン・ウェブスターと当時、若手ピアニストだったジョー・ザビヌル。ジャズファンであれば、この2人の共演に首をかしげるかもしれません。ウェブスターといえば40年代のジャズのスイング期から活躍していた開祖的存在。一方、ザビヌルは70年結成のエレクトリック系サウンドをメインとしたフュージョングループ「ウェザーリポート」のキーボード奏者。年も離れ活動の場も異なる2人には接点がないのでは、と思う人もいるでしょう。
 ところが実は、彼らは一緒に共同生活をしていた仲だったのです。63年当時、ウェブスターは西海岸からニューヨークに活動拠点を移したばかりで住む場所に困っていました。そこでザビヌルが彼を自宅のアパートに招き入れたのです。ソウルメイトになる以前からルームメイトだった訳ですね。
 共に暮らす中で、ザビヌルはウェブスターから音楽の多くを学びました。同時にザビヌルはウェブスターを慕ってアパートを訪れる数多くのジャズレジェンドと知り合うことができたのです。
 こうしたことで、ザビヌルはウェブスターに感謝するとともに、彼の音楽性、人間性を深く慕っていました。ウェブスターもまた、ザビヌルが苦しんでいた自分を招き入れてくれたことが嬉しかったのでしょう。
 このアルバムでは巨匠デューク・エリントンのナンバー「Come Sunday」を演奏しています。エリントンの楽団にいたウェブスターが、ザビヌルがエリントンを尊敬していたのを知っていて、アルバムへの収録を提案したのかもしれません。
 そんな新旧2人の演奏からはリラックス感にあふれたジャズ本来の味わい深さを感じられます。その後、彼らの友情はウェブスターが亡くなる73年まで続いたと思われます。音楽の世界でも技術は大切ですが、人を大切に思う気持ちがあってこそ良い音を奏でることができます。この1枚はそれを体現したアルバムと言ってもいいでしょう。
 (ジャズピアニスト、長崎市出身)

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