解体前の理容室で「壁画展」 若手アーティスト支援 長崎市出身の久米さん

「ふらっと遊びに来てほしい」と話す久米さん=長崎市、理容マロミ

 店の終わりはアートの始まり-。長崎市出身の美容師、久米保さん(54)は、取り壊し予定の船大工町の理容室「理容マロミ」内で絵の展覧会「最後の壁画展」を18~27日に開く。6月まで両親が営んできた同店の最後の思い出をつくろうと、地元の若手アーティストに依頼して建物を絵で装飾した。さらに取り壊し後はギャラリーとカフェに生まれ変わらせ、若い世代の作家活動を後押しする計画だ。
 マロミは1957年に久米さんの母、節子さん(84)が美容室として開業。父、敏吉さん(85)が75年に理容室として新装開店し、6月に高齢を理由に引退するまで60年以上営業を続けた。場所は歓楽街の中心部、丸山公園の目の前。久米さんが子どもの頃は毎日店にかばんを置いてから遊びに行き、時折顔そりにくる長崎検番の芸妓衆の姿にどきどきしたという。
 その後、久米さんも美容師に。福岡市で修業し数年で戻るつもりだったが、培った人脈を断ち切りたくないと福岡で美容室を開いた。父に店を継いでほしいと言われたことはなかったが、心のどこかに故郷に戻らなかった後ろめたさがいつもあったと打ち明ける。
 数年前、久米さんと他3人のきょうだいに両親がマロミの建物の活用を打診。その時、久米さんの頭に浮かんだのが「アート」と「町づくり」。海外を訪れるたびに心引かれたのは、美術館に子どもが気軽に出入りして絵を楽しむ姿や、アートがあふれる町並みだった。福岡で長崎出身の若者らと話をすると、収入や物の豊かさではなく、心揺さぶる面白さを求めて故郷を離れているようにも感じてきた。「誰でも気軽にアートに触れられて、若者が何かを始められる拠点をつくってはどうか」
 当初は建物を残そうとしたが、老朽化で難しいことが判明。解体前にできることを模索する中で、展示会を企画した。
 壁画を手掛けたのは県内のアーティスト2人。画家の大澤弘輝さん(28)は飲食店として貸し出していた1階部分を担当。独自のキャラクターや言葉をスプレーで描き、見る人が壁に絵を描きたくなる雰囲気をつくりだした。
 廃材にチョークなどで描いた絵画を手掛ける山脇理奈さん(35)は、2階の内壁や天井に絵の具で緻密な模様と絶滅危惧種の動物を描写。解体する建物と生き物に共通するはかなさを表現した。「日常の風景を少しだけ変えたいと普段から活動している。壁画に取り組んでいきたかったので、実現してうれしい」と声を弾ませる。
 久米さんは壁画展の終了後に店の解体作業に着手。新たに建てるギャラリーとカフェで、若手アーティストの生活の後押しやさまざまな分野の人々の交流を支えたい考え。「遊び心から始まった企画。ふらっと立ち寄ってもらえれば」と話している。
 最後の壁画展は期間中の正午~午後10時ごろまで開催。コーヒーや日本茶、軽食・菓子類の販売もある。問い合わせはエウレカ(電092.737.7570)。

店の壁に絵を描く山脇さん(手前)と大澤さん
理容マロミのさまざまな場所に絵を描く大澤さん(下)と山脇さん

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