ヤクルトなぜ負けない? 9連勝で6年ぶりVへ、OBが指摘する“勢いを与えた試合”

ヤクルト・高津臣吾監督【写真:荒川祐史】

打は村上、投は奥川が原動力「ベテランと主将のお膳立ても見逃せない」

昨季まで2年連続最下位のヤクルトが2015年以来6年ぶりの優勝へ歩を進めている。28日現在、2位の阪神に1ゲーム差をつけ首位。OBで現役時代に4度の日本一を含め5度のリーグ優勝に貢献した野球評論家・飯田哲也氏は、「今のヤクルトには優勝するチーム特有の一体感がある」と断言。チーム力アップの要因を分析し、Vへの最後の決め手を指摘した。

快進撃の原動力はなんと言っても、本塁打、打点の2部門でタイトル争いを繰り広げる4番・村上宗隆内野手。飯田氏は「打撃技術もさることながら、打てない時でもベンチで声を出しチームを鼓舞している。そういうところに成長を感じる」と高く評価。その上で「ベテランの青木、主将の山田がお膳立てをして、村上に気持ち良く打たせている点も見逃せない。バランスのいい関係が築けていると思う」と付け加えた。

とはいえ、もともと打線の破壊力には定評があった。開幕前には最下位を予想する声が多かったが、優勝争いに参入できた要因は「投手陣の踏ん張り。特に奥川(恭伸投手)の台頭にある」と見る。高卒2年目で20歳の奥川は今季、出場選手登録と抹消を繰り返しながら、基本的に中10日で先発。28日に本拠地で行われたDeNA戦では、6回3安打無失点の快投を演じ、今季8勝目(3敗)を挙げた。7月以降は5勝1敗、先発した7試合全てでQS(先発して6回以上を投げ自責点3以下)を達成している。

野球評論家・飯田哲也氏【写真:荒川祐史】

光る高津監督の「選手の気持ちに寄り添う采配」

奥川に無理をさせることなく、インターバルを与えながら成長を促した高津臣吾監督の手腕も光る。高津監督と同い年で現役時代に長年チームメートとして同じ釜の飯を食った飯田氏は「彼は自分が抑えを務めていただけに、選手の気持ちに寄り添った采配ができる。無理をして怪我をさせたら元も子もない、という方針も徹底している」と評する。

チームに一体感をもたらした試合があった。9月13日の中日戦。0-1と1点ビハインドで迎えた9回の攻撃で、1死一、二塁から川端が二ゴロ。二塁手・堂上は一塁走者・西浦にタッチをしようとしたが果たせず、一塁送球もセーフ。直後に西浦は一、二塁間に挟まれ、遊撃手の京田がボールを持って二塁ベースを踏み「フォースアウト」を主張したが、二塁塁審はノージャッジ。これを見て二塁走者の古賀優大捕手が三塁を蹴り本塁へ突入したが、タッチアウトとなった。さらに中日側のリクエストを受け、リプレー検証の結果、一塁走者のフォースアウトも認められゲームセットとなってしまった。

二塁塁審が普通にアウトとジャッジしていれば、古賀は本塁へ突っ込まなかったはず。中日ナインが引き揚げた後も、高津監督は約15分にわたって審判団に猛抗議し、その間ヤクルトナインは誰1人ベンチを動かなかったが、結局敗戦の事実は動かなかった。

飯田氏が「あれで、こんな形で優勝を逃すわけにはいかない、とチームの士気が上がった」と指摘する通り、ヤクルトは翌14日以降、9勝0敗4分の快進撃を続けている。

そんな燕軍団の不安材料をあえて挙げるとすれば、「1番に定着している塩見(恭隆外野手)でしょうね。今季打撃が開眼し、チームを引っ張ってきたが、まだ調子の波が大きいところがある。彼の勢いがパタッと止まってしまった場合、得点力がダウンする恐れがある」と言う。

「惜しかったね、では意味がない。優勝できなければ、2位も最下位も同じだと思う。せっかくのチャンスをぜひモノにしてほしい」とOBとしてゲキを飛ばす飯田氏。久しぶりに訪れた好機を、逃すわけにはいかない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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