最高のアスリート

 「あなたが選ぶ長崎県の印象に残るアスリートは」と問われたら、皆さんは誰を推しますか。体操の内村航平選手、柔道の永瀬貴規選手…。そうそうたるメンバーが思い浮かぶだろう。そこで名前が挙がりそうな一人、陸上競歩の森岡紘一朗選手が先日、現役を引退した▲彼が有名になったのは2003年夏、県立諫早高3年で臨んだインターハイ(長崎ゆめ総体)。1位でゴールしながら、直後に歩型違反で失格を宣告された。歓喜のラストシーンは幻に終わった▲以降、彼は「速く、美しく」という理想のフォームを追求。五輪3大会、世界選手権5大会に出場した。あの夏以来、最後まで一度も失格はなかった▲魅力は競技面だけではない。温厚な人柄、リーダーシップ…。どんなに調子が悪いときも、長崎のユニホームで国体に出場してくれた。地元を愛し、地元に愛されてきた▲今後は所属先の富士通でコーチを務める。おそらく彼ならば、自らが届かなかった世界のメダルを手にする選手を育てるだろう▲そう考えながら、電話で「メダル」の話を振ってみると、彼はこう返してきた。「これまで多くの方々との素晴らしい出会いがあって今がある。僕もまずは出会えて良かったと思われる存在になりたい。メダルはその後ですね」。また、ファンになった。(城)

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