核なき世界を鑑みる

 「ダベる」とは駄弁、つまりくだらないおしゃべりをすること。「ジコる」は事故を起こす。「テカる」は、てかてか光る。「ハモる」はハーモニーをつくりだす。言葉に「る」をくっつけて動詞にする例はよくある▲名詞と「る」の組み合わせは、遠い昔もあったらしい。「鑑みる」は、もともと「かがみ」に「る」。やがて「かんがみる」へと読みが変化したという▲その意味は、鏡に映し出すように、過去の例、今の事情に照らして判断すること。広島が地元で、外相の頃は被爆地への心遣いも見せた岸田文雄首相にいま一度、「核なき世界」を鑑みる時が来ている▲核軍縮への思いは強いとされる。5年前、当時のオバマ米大統領の広島訪問をお膳立てした。核兵器禁止条約ができる前には、各国の議論の場に日本も参加すると一度は表明している▲首相だった安倍晋三氏の反対を食らって見送ったが、もし参加すれば非核保有国と顔つなぎをして、対話の窓も開けると考えていたらしい。その思いは今も残っているだろうか。首相に就いた岸田氏は、核なき世界へと「核保有国を引っ張る」と述べた▲核を持つ国、持たない国との「橋渡し役」だと日本政府は名乗っているが、今もって「自称」にとどまる。トラブっている世界の橋渡し役をこれ以上、サボッてはいけない。(徹)

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