真鍋さんの言葉

 「空気を読む」という時の「空気」とは何かを突き詰めた人がいる。評論家の山本七平さんは40年ほど前にこう書いた。〈「空気」とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である〉(「空気」の研究)▲〈至る所に顔を出して、驚くべき力を振(ふる)っている〉のが空気だ、とも述べている。ノーベル物理学賞に決まった真鍋淑郎さん(90)が米国の大学で講演しているのをニュースで見ていて、ふと「空気」の一語が頭に浮かんだ▲なぜ米国籍に変えたのか、と聞かれて、柔らかな語り口で返した。「日本人は互いに迷惑をかけまいと気を遣い、協調的な関係を結ぼうとします」。それでうまくやっていける、と▲米国はといえば「好きなことができて、周りがどう感じるか気にしない。上司はやりたいようにさせてくれました」。日本人が空気を読み、人を気遣うのを特長と認めながらも、米国流の自由を選んだらしい▲協調の国でありながら「対話」が足りない、とも真鍋さんは語った。「日本では科学者が政策決定者に助言するためのコミュニケーションが取られていない」▲日本学術会議の任命が拒否された問題を指すようでもあり、コロナ対策を巡る政府と専門家の温度差を指すようでもある。政治と科学のぎくしゃくしたこの空気を、海の向こうでお感じらしい。(徹)

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