「LMHは合理的でない」とLMDhを選択したアルピーヌ。IMSA含めカスタマーチーム獲得も視野

 アルピーヌのローラン・ロッシCEOによれば、ル・マン・ハイパーカー(LMH)ではなく、LMDh規定でのプログラムを実行するというアルピーヌの決定においては、経済面での配慮が最大の決め手となったという。

 アルピーヌは10月5日、コストを抑えたオレカ製シャシーをベースにしたLMDh車両を同社のF1部門とレースチームであるアルピーヌとともに開発、2024年からWEC世界耐久選手権のハイパーカークラスに参戦すると発表した

 ロッシはこの発表後、フランスのEndurance-infoのインタビューに応え、他のLMHにおけるオプションと比べ、より優れたコストコントロールを伴うLMDh規定を選択するというアルピーヌの決定においては、その中心に経済的な要因があったと説明している。

 彼は、アルピーヌがLMHにコミットする場合の「(予算金額の)総計は、合理的でない」と示唆した。この金額には、モノコックやハイブリッドシステムなど、新規に独自開発すべきパーツが含まれるものとみられる。

 アルピーヌはLMDh用に独自のブランドのエンジンを開発することにはなるが、LMDhにおけるハイブリッド・モーターは共通パーツであり、ベースとなるシャシーは選択された4つのコンストラクターのうちのいずれかひとつによって提供される。

「LMHは技術的な自由という側面ではまさに関心があるところであり、絶対的なパフォーマンスの追求という面が際立つ規則となっている」とロッシは述べている。

「それについては、我々はF1で取り組んでいる。LMHではより多くの財源を必要とするが、LMDhにおいては投資の償却が可能となる」

「もしLMDhというカテゴリーが存在しなければ、冒険を続けることはできなかっただろう。なぜなら、(LMHで必要な)数億ユーロを費やすことはできないからだ。その合計金額は、誰にとっても合理的ではないものだった」

「LMDhは、誰もがプレミアムカテゴリーへアクセスすることを可能にする。BoP(性能調整)は、競争の場を平準化してくれる。“創意工夫”という思いがけないボーナスは、アルピーヌにとって魅力的でもあった」

 アルピーヌは2024年からのトップレベルの耐久レースへの関与を更新する前に、いくつかの重要なパラメーターを評価していた。

 アルピーヌは現在、アルピーヌのバッヂをつけたオレカ製のノンハイブリッドLMP1マシン『アルピーヌA480・ギブソン』で、WECのハイパーカークラスに参戦している。

「このハイパーカー(クラスの)プログラムの発表に、満足している」と語ったロッシは、アルピーヌが今年ル・マン24時間レースにおいて、その将来のプログラムの確約間際の状態にあったことを明かしている。

「我々の野心を表明したいとは思っていた。ただ、技術的な実現可能性が主題となり、それが多くの疑問を引き起こしていた。我々は2023年にはどのような形でそこに存在するのか、ル・マンはどのようなものになるのか、F1との互換性はどうか、技術やコマーシャル面での相乗効果はどうなるのかなど、さまざまな疑問があった」

「我々は、カッコ良さだけのために、このプログラムを実行しているわけではない」

アルピーヌのLMDhプログラム発表に登場した(左から)ピエール・フィヨンACO会長、アルピーヌのローラン・ロッシCEO、シグナテックのフィリップ・シノー代表

■カスタマーによるIMSA参戦には“別ブランド”が必須

 アルピーヌは2024年のWECのシーズンに2台のLMDh車両を投入するが、カスタマーの手によってそれ以上の台数のマシンがレースをする可能性もある。

 ロッシは、アルピーヌのLMDhを購入するインディペンデントチームを持つことは潜在的なビジネスケースとして「野望」であると説明し、さらに北米のIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権でその車両を走らせるカスタマーにも門戸を開いていることをほのめかした。

 ただし、アルピーヌはアメリカでロードカーを販売していない。これは、アルピーヌLMDhはその名称においてIMSAに参戦することはできないことを意味する。したがって、その際はアメリカの市場に存在する別の提携ブランドの名前で参入する必要がある。

 ルノーグループの別の会社名でIMSAに参戦することを検討するかと問われたロッシは、次のように述べている。

「アルピーヌは、WECとル・マンにおいてコンペティティブでありたいと思っている。我々には、カスタマーを持ちたいという野心もある。(カスタマー)チームが望むのであれば、IMSAでアルピーヌを走らせることは問題ではない」

「カスタマーチームをより早い段階で持つことができるなら、プログラムの収益性は高まるだろう」

■2022年は特例措置延長を希望。“2023年問題”はどうなる?

 ロッシはまた、LMDh車両がデビューするまでの間の、2022年および2023年シーズンにも、WECのグリッドへ留まることを望んでいる。

 規則移行年の特例措置により、現在WECのハイパーカークラスでLMHマシンと競っているノンハイブリッドLMP1マシン、アルピーヌA480・ギブソンについて、アルピーヌは特例措置の1年延長を熱望してきた。

 アルピーヌが来季、どうするのかについて尋ねられたロッシは、次のように答えた。

「2021年の素晴らしいパフォーマンスの後、詳細を詰めたい」

「2022年も、現在の車両が(新規定の適用を)免除されることを願っている」

 2023年については、さらに大きな疑問符が付く。この年からは、さまざまなコンストラクターのLMDh車両が、WECとIMSAのトップクラスには一斉に参入してくるからだ。

 ロッシは2023年の問題については、次のように述べている。

「このプログラムは、LMP2に戻ることができるだろうか? 技術的、あるいは社会的問題で『ガレージ56』の実証車両となることができるのか?」

「アルピーヌは、2023年に“ゲーム”(レース)に参加する必要がある。もしアルピーヌが現在の車両(A480)でル・マンに勝利した場合、2023年にその車両が再び(WECで)見られることに、疑問の余地はない」

2021年ル・マン24時間レース 参戦車両記念撮影の様子

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