ショー・マスト・ゴー・オン

 先日99歳で亡くなった長崎学の大家・越中哲也さんの葬儀で、喪主の妻京子さんのあいさつにしんみりとさせられた▲「もう一回くんちを楽しみたい」と言っていた越中さん。新型コロナウイルス流行の影響で奉納踊りの中止が決まった後も、稽古始めに当たる6月1日の「小屋入り」の時は、諏訪神社の周りをぶらぶら歩いていたという▲諏訪神社の秋の大祭、長崎くんちの奉納踊りは2年連続で中止になった。街中を歩いても、例年のように庭先回りの演(だ)し物に出合うこともなければ、生のシャギリの音も聞こえてこない。寂しさが込み上げる▲日本人は古来、祭礼や年中行事などを行う非日常の日を「ハレ」、普段通りに過ごす日常の日を「ケ」と呼んだ。民俗学でいう「ハレとケ」の観念だ▲祭りは人々の気持ちを高揚させ、結びつけ、ハレの喜びを与える。そうして地域の一体感を生みだす。人はハレの楽しみがあるからこそケを過ごすことができる▲長崎くんちに限らず、各地で多くの伝統行事が中止に追い込まれた。だが祭りは人と地域に欠かせない営みだ。英語には「ショー・マスト・ゴー・オン」(ショーは続けなければならない)という言葉がある。コロナが収束して、来年こそ長崎らしいハレの雰囲気を楽しみたい。越中さんも願っているはずだ。(潤)

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