現職時代の経験を小説に 元県警捜査1課長 上川さん コンテストで大賞

「これからも気力、体力が続く限り書いていきたい」と話す上川さん=長崎新聞社

 長崎県警捜査1課長を務めた元警察官で諫早市多良見町の上川秀男さん(73)が、60歳以上を対象にした「第3回セカンドライフ小説コンテスト」(幻冬舎ルネッサンス新社主催)で大賞を受賞した。殺人事件の真相を追う特捜刑事の姿を描いた受賞作「掟破りの刑事の正義」は、電子書籍として来春ごろ出版予定。同じ警察官で10歳の時殉職した父の背中を追って警察官となり、第一線を退いた後に小説を書き始めた。「現職時代の経験を基に警察や父親に対する思いを小説にしてみたかった」と話す。
 受賞作は1600字詰め100枚前後に及ぶ大作。現役を退きバーンアウト(燃え尽き症候群)に見舞われた元刑事が小説を書き始めるところから物語が始まる。その小説は、警察官だった父を亡くし、20年前に母子心中の末に命を取り留めた過去を持つ特捜刑事の村井が、長崎で見つかった若い女性の絞殺事件の捜査に当たるという内容。被害者は村井の幼なじみであることが分かり、事件は20年前の真実へとつながっていく…。
 200編以上の応募作から大賞に選ばれた。同社は「殺害現場の捜査シーンや警察同士のやり取りにある張り詰めた空気など、実体験から生まれるリアリティーは何ものにも替えがたい臨場感を生み出している。想像の斜め上を行くストーリー」と講評。上川さんは「講評でミステリー小説とされたが、私としては人生や生きざまをつづるヒューマン小説を目指した」と振り返る。
 長崎県諫早市出身。大学卒業後、1970年に県警察学校入校。2003年に県警捜査1課長となり、同年に長崎市で起きた男児誘拐殺害事件などを担当した。04年浦上署長を経て05年県知事部局に出向。06年に初代県危機管理監に就き08年に退職。その後も会社社長などを歴任した。
 小説を書き始めたのは13年ごろ。執筆を始めた動機には父が関わっている。「県幹部として終わることができて感謝しているが、最後まで警察官でなかったことは父に対する申し訳なさもあった。警察のことを書くのは、その罪滅ぼしのような思いもある」
 受賞作は以前の執筆作などを下敷きに今年、一気に書き上げた。「新型コロナウイルス禍で時間ができたこともあり完成できた。受賞はうれしかった。父にも報告できる」と表情を緩めた。現在は出版に向けた加筆修正を進めている。「事件の裏側にはその何倍もの人生と悲しみ、切なさがあることを、いろいろな事件捜査で痛切に感じてきた。作品で描いた『正義』が正しいのか、読者の考えを聞きたい」と語った。

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