衆院選 長崎1区 比例巡り思惑交錯 西岡陣営「背水の陣」 初村陣営、調整難航

公示直前の17日、笑顔で市民とあいさつを交わす西岡候補(右)。19日の出陣式で公明の秋野参院議員らに激励される初村候補(左)=いずれも長崎市内

 衆院選長崎1区は過去3回、与野党激戦の末、敗れた候補も、重複立候補した比例代表九州ブロックで復活してきた。今回も国民民主前職の西岡秀子候補(57)と自民新人の初村滝一郎候補(42)がしのぎを削り、比例を巡ってそれぞれの思惑が交錯。西岡陣営は党勢を踏まえ、比例復活が見込めないとして「背水の陣」で挑む。初村陣営は公明との選挙協力で難しい調整を迫られている。
 「比例復活は現実的には厳しい。小選挙区で一票でも上回らなければ、議席を失ってしまう」。公示日の19日朝、西岡候補は第一声で危機感を隠さなかった。
 背景には党基盤の脆弱(ぜいじゃく)さがある。昨秋の野党合流で国会議員150人を超える「大きな塊」となった立憲民主ではなく、政治理念・政策で心が通じる国民に残った。解散前勢力は20人。九州は大票田の福岡ですら先月ようやく県連組織が発足したばかりだ。
 国民は比例九州で1議席確保するには30万票が必要とみる。選挙区の活動で比例票を上積みしたいが、実際に九州・沖縄の選挙区で擁立できたのは西岡候補と宮崎2区新人のわずか2人。熊本など県連組織がない4県では街宣車を走らせる。共同通信が16、17日に実施した全国世論調査で、国民を比例投票先と選んだのは0.7%だった。
 西岡候補は衆院解散前から、週末のたび長崎市中心部のアーケードをのぼりを持ったスタッフと共に練り歩いた。こうした“桃太郎作戦”を選挙期間前に行うのは今までなかったという。陣営幹部は「新人相手でも、こちらがチャレンジャー」と強調する。
 玉木雄一郎党代表も長崎1区を「最重点区」として選挙戦最初の遊説先に選んだ。7月以降4度目の長崎入り。出陣式で「相手(初村氏)には強固な組織、団体が付いている。一人一人の市民に熱い思いを草の根運動で伝えていくのが一番大事」と陣営にハッパを掛けた。

 「皆さまの声に寄り添うことができるのは責任政党の自民党と公明党の連立与党のみだ」。出陣式で初村候補はそう声を張り上げ、最後に「比例代表は公明党」と言及することも忘れなかった。そばで公明の秋野公造参院議員がうなずいていた。
 公明の組織票は「勝つために無視できない」と初村陣営幹部。前回は自民の冨岡勉氏に約1万7千票を融通し、比例復活に貢献した-というのが公明側の見立てだ。以前からこうして選挙区で自民候補を支援する見返りに、比例票を回してもらうバーター戦術をとってきたが、2~4区に比べ「見返りが少ない」(公明県本部幹部)との不満がくすぶり続けている。
 このため8月以降、初村陣営と協議を重ね、今回は比例票の獲得目標を共有し「これまで以上に目に見える協力」も求めた。衆院解散前の10日には「ここ10年なかった」(自民県議)という両党支持者の合同集会を開催。共闘態勢を確認した。
 ただ「比例は公明」が一筋縄ではいかない実情もある。「選挙区で勝つのみ。比例復活はあくまで結果」。初村陣営幹部らがそう口をそろえるのも、公明への配慮と同時に、組織の緩みを警戒する狙いがにじむ。
 2年後の県議選長崎市区では、両党の議員はそれぞれ当選を目指す。ある自民県議は「票(支持者)を公明側に紹介するのは簡単ではない。次の選挙で利用されたくない」と本音を明かす。だが公明側も黙ってはおらず、こうくぎを刺す。「(自民県議の)後援会に攻め込むつもりはない。ただし、選挙協力はギブアンドテイクだ」

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