高値あり、安値あり

 病身の母と二人住まいの男性が詠んだらしい。この欄のお隣、「きょうの一句」のかつての作にある。〈今日はまた男の焼きし秋刀魚(さんま)かな〉。またサンマか…というぼやきではなく、母子とも好物なのだろう、と解説が添えてあり、お母さんへの心遣いも伝わってくる▲載ったのは5年前で、この頃はまだ秋の食卓の定番だった。今では「今日はまた」と生サンマを味わうことはあまりないかもしれない。今年も水揚げは少ないとみられる▲サンマなどの不漁は、地球温暖化で海水温や海流が変化したため-という報告書を、水産庁が設けた有識者の検討会が6月にまとめた。長く続く可能性があるという▲今年は燃料費も跳ね上がった。不漁に加え、漁に出る費用もかさめば、サンマはますます「庶民の魚」から遠ざかる。思えば今月は加工食品が値上がりし、ガソリンも灯油も高値が続く。消費者の心は曇りがちだろう▲グッドニュースもある-と言えば大げさだが、近ごろはレタスなど野菜の値段が落ち着いてきた。長雨が響いて高止まりだったが、今月前半の好天で多く出回るようになったためという▲魚一匹、野菜一個の値段が、気候の変動や天候の移ろいをそのまま映す。〈星降るや秋刀魚の脂燃えたぎる〉石橋秀野。生サンマが焼ける風景がどこか遠く思える。(徹)

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