ABBAの伝説的キャリアが始まったデビュー・アルバムの内容とは

多くのバンドが大胆なマーケティング戦略でそのキャリアをスタートする現在とは異なり、世界最高のポップ・グループ、ABBAの誕生は比較的地味なものだった。

1973年3月26日にリリースされた、ABBAのデビュー・アルバム『Ring Ring(リング・リング〜木枯しの少女)』はこの先に起きることのヒントでいっぱいだったが、とてもリラックスした作りになっていたのだ。

ベニー・アンダーソンとビョルン・ウルヴァースは70年代頭には既に一緒に仕事をしていたが、うっとりするような男性と女性ボーカリストの混成によるブルー・ミンク(Blue Mink)などのグループでの成功は、スウェーデン国内だけではない成功を手にするために必要な、通常とは異なるアプローチを示唆していた。

ベニーとビョルンによる軽妙で、レトロでポップなサウンドは、彼らのロマンティックなパートナー達であり、既にチャートにおける実績を持ったナイト・クラブのスター、アンニ・フリード・リングスタッド(フリーダ)とアグネタ・フォルツコグとの新鮮でプロフェッショナルな合体で、いっそう活気あるものになった。

スタジオ・テクニックの魔術とトレードマークのヴォーカル

彼ら4人が最初にレコーディングした曲「People Need Love」は1972年3月に完成して、その2ヶ月後にシングルとしてリリースされた。最初は時間がかかったものの、最終的にそこそこのヒットになったので、その9月には4人はスタジオに戻り、結果ABBAのデビュー・アルバムとなる『Ring Ring』に取り組むことになった。

このデビュー・アルバムには、彼らの後の多くの人気曲に見られるような、彼らの才能を裏付ける要素が既に存在していた。「Nina, Pretty Ballerina(ニーナは、かわいいバレリーナ)」ではテープ速度を速めたピアノリフを使うスタジオ・テクニックを駆使し、「Love Isn’t Easy (But Sure Is Hard Enough)」ではトレードマークのアクロバット的なヴォーカルのピッチを完璧に仕上げている。

「僕らは何かポップなものをやりたかったんだ」

そんなABBAの伝説的なキャリアは、その年の11月にベニーとビョルンのビジネス上の助言者だったスティッグ・アンダーソンが、翌年のユーロヴィジョン・ソング・コンテストにスウェーデン代表として曲を提供しないか、とアプローチされた時から始まった。

スティッグは、このイベントが当時のヨーロッパ出身のアーティスト達に対して持たれていた”紳士や教養人を気どっている”という固定概念を打破するためのパスポートになると考えた。コンテストで勝つための楽曲のアイディアを練るための絶好な場所として、スウェーデンのヴィクセ島にある彼の夏季別荘が選ばれ、1973年1月には「Ring Ring」が書き上げられた。

その月の後半に急ピッチでレコーディングが行われた「Ring Ring」は当初ユーロヴィジョンのスウェーデン代表を決めるために審査された楽曲の中では一番人気だったが、なぜか不可解なことに、最終的に3位という結果となり、国代表には選ばれなかった。スティッグは当時をこう回想する。

「僕らは何かポップなものをやりたかったんだ…ポピュラー音楽のテイストを感じさせるようなものを。ブラック・タイとかイヴニング・ドレスとかそういった、ユーロビジョン・ソング・コンテストを取り巻くきらびやかな感じを吹き飛ばしたかったのさ」

この国内選考委員会を組織した業界のお偉方はスティッグの考えには同意しなかったようだ。

しかし、その春「Ring Ring」がスウェーデンのヒットチャートで6週連続トップを記録し始めた時、選考委員会の決定は一般のリスナーたちの意見とは大きくずれているように見えた。というのもユーロビジョンでスウェーデン代表となった別の曲は最終的にコンテストでは5位どまりだったのだ。

こういったことは初めてのことではなく、ABBAは批評家たちからの評価は得られなくても、本当に重要な人々、すなわちレコードを買ってくれる一般大衆からは絶対的な支持を受けてきている。

すべてが盛りこまれたバイキング料理のようなアルバム

大ヒット・シングルを我がものとしたバンドはその熱が冷めないうちにレコードショップの店頭にアルバムを出す必要があったが、2月のアグネタが娘のリンダを出産したこともあって、断続的なレコーディング・サイクルが更に複雑になってしまっていた。

再開されたレコーディング・セッションでは新たに3曲が追加され、その中にはABBAのアルバムに収録された唯一のアグネタ作である、はかなくも美しいバラード「Disillusion」も含まれていた。また、彼女の後期におけるヴォーカル・ワークの頂点である「The Winner Takes It All」を思わせるパフォーマンスをここで聴くことができる。

この段階では、メンバーたちは完全にフルタイムでのABBAへの参加をコミットしていたわけではなかったが(このアルバムは下記のジャケット写真のようにABBA表記ではなく、当初はビヨルン、ベニー、アグネタとフリーダのそれぞれのクレジットになっていた)、『Ring Ring』はその後起きることすべてが盛りこまれたバイキング料理のようなアルバムに仕上がった。

左が当初のジャケット写真、右が後にABBAとなったもの

例えばいくつかの国ではシングルカットされた「He Is Your Brother」という曲などでは、この後すぐにバンドが得意技とする、一緒に口ずさめるようなコーラスを聴かせてくれる。

2013年に曲数を追加し、グループの方向性を決定した初期の影響力をサポートする作品を含むデラックス盤としてリイシューされた『Ring Ring』には多様なスタイルの手軽なおつまみのような楽曲群が収録されているが、それらはABBAの真に天才的な才能で一つの素晴らしいご馳走にまとめ上げられている。その才能とは、土臭いフォークとキャッチーで強力なポップ・ロックを見事に対比させながらブレンドさせるプロダクションの妙だ。彼らの絶妙なプロダクションのレシピは年を重ねるうちに洗練されていくことになるが、それを構成する要素は既にこの作品にあり、正しく配合されていたのだった。

Written By Mark Elliott

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ABBA『Voyage』

**40年ぶりの新作アルバム
ABBA『Voyage』
**2021年11月5日発売

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