長期保有しても無意味な投資信託とは?ゾンビファンドが存続している理由

投資信託協会が発表しているデータによると、2021年8月末時点における国内公募投資信託の運用本数は5,917本。ピーク時には6,163本もあったことからすれば徐々に減りつつありますが、本当にそれだけのファンドが真面目に運用されているのでしょうか。


半分の投資信託が純資産30億円未満

2021年8月末時点の国内公募投資信託の総本数が5,917本。ここからDC専用ファンドやSMA専用ファンドなど一定条件のもとでしか購入できない投資信託を外すと4,717本になります。

よく投資信託選びに際しては、「ファンドの本数が多すぎて選ぶのが大変」という声を聞きます。確かに4717本もあるのですから当然です。でも、本当にちゃんと運用されている投資信託は、ごく一部に過ぎません。つまり私たちが投資信託を選ぶ時には、かなりのところまで購入対象を絞り込むことが出来るのです。

まず純資産総額別に投資信託の本数を調べてみました。

1億円未満・・・・・・237本
1億円以上10億円未満・・・・・・1,370本
10億円以上30億円未満・・・・・・1,053本
30億円未満の投資信託の本数は2,660本です。

恐らくこの2,660本の投資信託については、真面目に運用されていない恐れがあります。なぜなら、真面目に運用しても投資信託会社にとっては、ほとんど収益に寄与しないと思われるからです。

純資産30億円未満の投資信託は赤字?

だいぶ昔の話になるので私の記憶も曖昧なのですが、今の財務省が大蔵省と呼ばれていた当時、ある大蔵官僚が投資信託の純資産総額と、そこから得られる収益、運用や管理、販売などに係る諸経費を計算し、「株式型投資信託は純資産総額が30億円未満になると、それを運用している投資信託会社にとって赤字要因になる」ということを、ある集まりで話したと、投資信託業界内で軽く話題になったことがありました。

当時の信託報酬率は、株式型投資信託で年2%超取っているものが大半だったので、昨今のように信託報酬率がさらに低下している状況のもとでは、損益分岐点のハードルはもっと上がっているかも知れません。

仮にこの計算が正しいとすれば、純資産総額が30億円未満の投資信託は、投資信託会社にとって運用する意味がないことになります。投資信託会社はあくまでも民間企業であり、収益を生み出さなければ会社の存続そのものが危うくなりますから、それは当然のことです。

もう少し詳しくデータを見てみましょう。純資産総額が10億円未満だとしても、直近設定であれば、徐々に純資産残高が積み上がっていく可能性があります。

純資産総額が10億円未満の投資信託の本数は1,607本ですが、このうち運用期間が5年以下のものは569本です。ということは、1,038本の投資信託は運用開始から5年超が経過しているにも関わらず、純資産総額が10億円未満なのです。この1,038本の投資信託に関しては、恐らく販売金融機関の窓口で顧客対応をしている人ですら、自社で販売していることを知らないのではないでしょうか。

繰上償還されない理由

では、どうしてこのようなゾンビファンドが、真面目に運用されることもなく、そのまま存続しているのでしょうか。さっさと繰上償還してしまった方が、投資信託会社としても、あるいは販売金融機関としてもスッキリするのではないかと思うのですが、これだけの本数が繰上償還されることなく存続しているのは、何か繰上償還できない理由があるのかも知れません。

そんな疑問があって、以前、投資信託会社の人に聞いてみたことがあります。その答えは、「繰上償還させるのにもコストがかかるので、そのままになっている」ということでした。

確かに、昔は繰上償還させる際には「新聞公告」といって、あらかじめ掲載する新聞を決めたうえで、繰上償還させることを受益者に伝える義務がありました。恐らく大半の投資信託は、日本経済新聞の紙面に公告を掲載していたはずですが、最近はホームページを通じて公告する電子公告が一般的になっていますから、公告に関するコストは、ほとんどかかっていないはずです。

ただ、繰上償還させた場合、当然のことですが、償還金を受益者に返還する必要があります。その際にかかる振込手数料などのコストがかかることや、設定から長い年数が経過している投資信託の場合、受益者が死亡するなどで不明になってしまい、償還金を返還できないといった問題が生じることも考えられます。結果、いろいろと面倒なので、真面目に運用されることもなく、そのままになっている、というのが現実なのでしょう。

長期保有しても無意味な投資信託

もちろん、この手の投資信託を新規で購入する人は、まずいないと思われます。前述したように販売金融機関の窓口にいる人でさえも、この手の投資信託を扱っていることなど忘れているでしょうから、お客様に勧めることなど、ほとんどありえません。

ただ、こういったゾンビファンドを今も大事に持っている人は、仮に基準価額が購入時に比べて下がっていたとしても、解約することをお勧めします。

その理由は、収益が見込めない投資信託の運用にコストをかけて運用しようと考える投資信託会社などないからです。このような投資信託を保有し続けたとしても、基準価額が元の水準まで回復し、さらに値上がり益が期待できるところまで上昇する可能性は、ほぼゼロと言ってもよいでしょう。

この手の投資信託を保有し続けるとポートフォリオの資金効率が悪くなるだけですから、早急に解約し、他の投資信託に乗り換えるなど、見直しを図ることをお勧めします。

「投資信託は長期保有が基本」などと言われますが、設定からある程度の年数が経過しても純資産総額が小さいままの投資信託は、長期保有する意味がありません。

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