ABBAが世界を征服したセカンドアルバム『恋のウォータールー』

ABBAのグローバルな成功を確実なものとした楽曲「Waterloo(恋のウォータールー)」を収録した同名アルバムは、当時のことをはっきりと思い出させてくれるタイム・カプセルであり、かつ時代を超越した作品だ。

このシングルの親しみやすさを支えているのは、1974年4月6日の土曜日、イギリスの海辺の街ブライトンで行われたユーロビジョンにおける、彼らの伝説的でグラム・ポップなパフォーマンスだ。しかしこのアルバムが届けてくれるものはそれだけではない。

前作であるデビュー・アルバムのタイトルトラック「Ring Ring」が前年のユーロビジョン候補曲のスウェーデン国内選考に漏れた後でも、ABBAはその実力をいかんなく示した。スウェーデンでの「Ring Ring」とそれを含むアルバムの素晴らしい売上で、4人は自分たちのアプローチが正しかったと確信。(もともとはグループ名ではなく4人の個人名義だったが)ようやくABBAと正式に呼ばれるようになった彼らは、もう一度ユーロビジョン大会に挑むというアナウンスメントが出る前から、セカンド・アルバムに向けてのセッションを既に開始していたのだった。

ユーロビジョンでの優勝

後にアルバム『Waterloo』からのサード・シングルに選ばれた「Hasta Mañana(落葉のメロディ)」のもともとのタイトルは「Who’s Gonna Love You(訳:誰が君を愛するの?)」だった。このミッドテンポの控えめなイメージのバラード曲はユーロビジョン用の曲としては安パイのように見えたが、「Waterloo」の現代的なアプローチには何かそれ以上のもの、つまり華やかなポップ・ソングでありながら、それまでのABBAの楽曲にはない鋭さを持っており、それらがこの曲をユーロビジョンに持っていくことに決断した決めてだった。そしてそれは正解だった。

ユーロビジョンのスウェーデン代表曲に選ばれた「Waterloo」は充分なリードで優勝に輝いて祖国に凱旋しただけでなく、UKではシングルチャート1位に輝き、従来ユーロビジョン楽曲の魅力には抵抗してきたアメリカでもトップ10を記録するなど、世界的なヒットとなった。

アルバムの内容

1974年3月4日にリリースされたアルバム『Waterloo』はユーロビジョンの一ヶ月前にはABBAの祖国スウェーデンでは市場に出回っていた。前作の『Ring Ring』より更に深みを増したアルバムとなった『Waterloo』は、驚くほどの様々なスタイルのセンスを持ち合わせている。

「King Kong Song(キング・コングの歌)」などはスージー・クアトロがレコーディングしても全くおかしくなく、「Gonna Sing You My Love Song(私の愛の歌)」はキャロル・キングの作品だと言っても充分通るだろう。そして「What About Livingstone」などはキンクスのアルバムに違和感なく収まる曲だ。

楽曲をこれまで以上に支配するアグネタとフリーダの華々しいボーカルを聴くと、これがABBAのアルバムだということを思い知らされる。おそらくこのグループが作った最初の偉大なコレクションであり、間違いなくあの時代の作品の中でも最強の部類に入るだろう。アルバム『Waterloo』は、その目的を見事に達成したグループのサウンドを捉えているのだ。

タイトル曲の次に聞き覚えがあるのが「Honey, Honey」だろう(大ヒットミュージカル『マンマ・ミーア!』の中で印象的に使われていたこともその要因だ)。軽量級ながらキャッチーなこの曲は、アルバム『Waterloo』からのセカンドシングルとしてほとんどの国でリリースされたが、理解に苦しむことにイギリスではリリースされず、代わりにスタジオ・ミュージシャンたちによるカヴァー・グループ、スイート・ドリームスが1974年にリリースしたカヴァーがトップ10ヒットとなった。しかし「Honey, Honey」はアルバム全体の雰囲気とは全くかけ離れていて、アルバムはこれまでのABBAのレトロ・ポップをルーツとするスタイルから明らかに一線を画した内容になっていた。

アルバム『Waterloo』が発売された当時、グラム・ロックはその人気の頂点にあり、アルバム収録の「Watch Out」は明らかにその状況にヒントを得たものだ。曲のエンディングでは爆発するようなギターがフィーチャーされ、アリス・クーパーあたりが聴いたら誇りに思うようなサウンドだが、その後ベニーとビヨルンはこの曲についてはやや複雑な心境を漏らしている。

その全く正反対のスタイルを持った「Suzy Hang-Around」は、ザ・バーズを思わせるような12弦ギターのリフに始まり、ベニーによるリード・ボーカルという、ABBAとしてはユニークな瞬間に流れ込んでいく。魅力的でメロディアスな、このバンドの多才さを完全に証明している珠玉の作品だ。この曲を聴いてABBAの作品だとすぐ気が付く者は少ないだろうが、これは彼らのディスコグラフィをより深く掘り下げていくと多くの驚きに出会うことのよい例だ。

一方、トロピカルでレゲエ風味の「Sitting In The Palmtree(シュロの木のそばで)」は明らかにシングル・リリースされるべきだったのに見逃された曲の一つだ。

『Waterloo』は世界中のアルバム・チャートで躍進したが、その後のアルバムでは普通となったマルチ・プラチナ・セールスの認証は逃している。しかし、ABBAの4人は世界中の注目を得るために戦い、見事彼らにとっての最初の戦に勝利した。ナポレオンは確かにワーテルロー(Waterloo)で敗北した。ABBAがユーロビジョンのステージに上がった瞬間、世界中が白旗を上げるのはおそらく避けられないことだったに違いない。

Written By Mark Elliott

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ABBA『Voyage』

**40年ぶりの新作アルバム
ABBA『Voyage』
**2021年11月5日発売

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