小学校体育館が野球の練習場へ 閉校利用で取り戻す子どもの声と町のにぎわい

10月31日に完成した「PLAYSPACE YOZEI」の様子【写真提供:PLAYSPACE YOZEI】

鹿児島・薩摩川内に「PLAYSPACE YOZEI」がオープン

子どもたちの声と活気が戻ってくる。鹿児島県の小さな町に、野球の室内練習場が10月31日に完成した。その場所は、閉校になった小学校の体育館だった。3年前に閉校となった薩摩川内市の旧陽成小学校の体育館を野球などができる室内スポーツ用施設に作り変えるプロジェクトがスタート。作り手がイメージしたのは地元の子どもたちの笑顔だった。

【動画】閉校した学校の体育館が野球の力で蘇るまでを収めた感動の瞬間

鹿児島県の北西部に位置する薩摩川内市。約9万3000人の市民が暮らしている。プロ野球選手の自主トレにも使用される地ではあるが、ここにも、地方の市町村が抱える人口減少や若者流出の波が押し寄せている。野球人口も減り、かつてのような町のにぎわいはなくなった。ただ、野球の可能性を信じ、その波に抗っている人たちがいる。

「色んな方に地方に来てほしいんです。地方から甲子園も目指してほしい。みっちり野球の練習をしてもらうのもいいですし、親子でキャッチボールやバッティング練習する施設になってほしいですね」。

「PLAYSPACE YOZEI」を設計したのは株式会社FRONT-A代表取締役社長の福永幸央さん。活用するのは、2018年に閉校した地元にある小学校の体育館だ。床を剥がしてコンクリートで下地をつくり、人工芝やネットを整備。マシンを使える5カ所の打席と、ティー打撃ができるスペースを設けた。

20年ほど前は高校球児だった福永さんが、室内練習場を設計しようと思ったきっかけは2つある。1つ目は雨が降ると、野球の練習場所がないこと。薩摩川内市は大学や企業の合宿を誘致し、オフになると自主トレに来るプロ野球選手もいる。地元の子どもたちだけでなく、鹿児島県外から来る選手が体を動かす施設が不足していた。

そして、もう1つは人口減少だ。薩摩川内市も全国の自治体と同じように少子高齢化に直面している。地元にある24の小中学校が閉校。福永さんはにぎわいを失っていく町の移り変わりを見てきた。

広がっていってほしい閉校利活用

「地域ににぎわいを取り戻すには、多くの人を動かせるスポーツだと思いました。閉校を室内練習場に活用できると考えました」

野球には町を元気にする力がある。福永さんは閉校になった小学校の改修を企画した。思いに賛同したのが、都内で野球用品の製造・販売をしている「フィールドフォース」だった。福永さんが6月にメールを送り、7月中旬にフィールドフォースの吉村尚記代表と初めて顔を合わせた。「古き良き時代の空き地を取り戻したい」と野球人口減少に歯止めをかけようとしている吉村代表は、その場で福永さんのサポートを決めたという。出会いから、わずか3か月で計画を形にした。

「日頃から抱いている我々の思いと同じでした。私が子どもの時は当たり前だった野球ができる空き地や公園が、どんどんなくなっています。子どもたちが自由に野球を楽しめる場所を増やしていきたいと思っています」

フィールドフォースでは7年ほど前から、使用しなくなった建物を室内練習場に改修している。都内にあった自社の倉庫から始まり、北海道や福岡と全国に取り組みを広げている。これまでは空き店舗などを活用していたが、福永さんとの出会いで「閉校の利活用」に関心を持った。自治体のホームページを見ると、全国に使われなくなった多くの学校があると知った。今後は閉校した学校も活用していく考えだ。

「閉校利活用」の動きは広がりつつある。栃木県に本拠地を置くBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスも、閉校した小学校の体育館を改修して、室内練習場にしている。静まり返った学校を野球の力でよみがえらせる。「子どもたちの声や、町のにぎわいを取り戻したい」。福永さんとフィールドフォースの思いと力が1つになった室内練習場は、10月31日に幕を開けた。(記事提供:First-Pitch編集部)

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