なぜ燕・奥川恭伸はCSの大舞台で完封できたのか? 専門家が読み解く20歳の“凄み”

ヤクルト・奥川恭伸【写真:荒川祐史】

「奥川の制球力は現時点で球界トップクラスだと思います」

■ヤクルト 4ー0 巨人(CSファイナル・10日・神宮)

ヤクルトと巨人が戦う「JERA クライマックスシリーズ セ」ファイナルステージの第1戦が10日、神宮球場で行われ、ヤクルトが4-0で巨人に快勝し、アドバンテージを含めて2勝0敗とした。先発の奥川恭伸投手がCSの大舞台でプロ初完投初完封を、わずか98球の“マダックス”で達成。20歳の若武者の凄みを、ヤクルト、日本ハムなど4球団で捕手として21年間活躍した野球評論家の野口寿浩氏が紐解いた。

まず、真っ先に奥川の特徴を「全ての球種でカウントを稼げて、全ての球種で勝負できる。そこが一番凄い。全ての球種をコントロールできて、キレもあるから、打者としては狙いを絞りにくいし、捕手としては配球の幅が広がります」と指摘した野口氏。「この投手が打たれたら、キャッチャーのせいと言われても仕方がない」と苦笑いした。

最速149キロを計測したストレートをはじめ、カットボール、スライダー、フォークを駆使。3点リードの5回には1死一、三塁のピンチを背負い、代打・亀井を迎えたが、初球の真ん中低めのフォークを打たせて浅い左飛に。三塁走者のタッチアップさえ許さなかった。

経験豊富なベテランの亀井に対して、しっかりとしたスイングをさせなかった奥川。野口氏は「しっかり低めに来たこともそうですが、本来ウイニングショットで使うフォークを、初球から投げ込むことができたところがポイントでした。打者としては、これだけコントロールの良い投手に対しては、待っていたら追い込まれてしまうので、若いカウントから手を出していく。そこで予想していなかった球種が来たので、打ち損じましたね」と野口氏は読み解いた。

「完成度、制球では奥川が上回る。凄いのが佐々木朗、巧いのが奥川」

続く代打・八百板に対しても、カウント3-2から外角いっぱいの142キロ速球で見送り三振に仕留め、ピンチを脱出して雄叫びを上げた。「ストライク、ボールのどちらとも言えるコースでした。コントロールが良いというイメージのある投手は、際どいコースに投げた時、球審に手を上げさせることができる。僕が現役時代に受けた投手の中では、日本ハムの金村暁投手(現阪神1軍投手コーチ)がそうでした。実際、奥川の制球力は現時点で球界トップクラスだと思います」と野口氏は目を細めた。

この日の奥川のように100球未満で完封することを、「精密機械」の異名を取ったメジャーリーグの名投手にちなんで“マダックス”と呼ぶが、まさにその名にふさわしい制球力である。体力的にはまだ成長段階。レギュラーシーズンでは中9日以上のインターバルを空けて先発していた。そのペースを守るなら、CSでの出番はこれが最後になる。チームが無事に日本シリーズ進出を果たした場合、中9日で20日の第1戦に先発することになるだろうか。

「こうなると、中6日をいつ解禁するのか、非常に興味深いですね。来季開幕からなのか、球宴明けくらいまでは現在のペースを守るのか……」と野口氏。怖いのは故障だけ。今季は長いインターバルを空けたとはいえ、シーズンを通して活躍した疲労はあるはずだ。加えて、東京五輪開催に伴う中断期間を設けた影響で、例年に比べて日本シリーズ終了が約1か月遅く、その分シーズンオフが短くなる事情もある。

パ・リーグのCSファーストステージで最速159キロを叩き出し、6回1失点の快投を演じたロッテ・佐々木朗希投手とは同世代。「完成度、制球では奥川が上回る。いわば、凄いのが佐々木朗、巧いのが奥川。タイプは違います」と野口氏は言う。今後長年にわたって球界を牽引していきそうな2人が、まばゆい輝きを放ったことは間違いない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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