『9月入学論』見送りをめぐり 自民党内で熱きドラマが?!乙武洋匡が自民党・柴山昌彦氏に迫る!

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今回は2020年7月10日に公開された対談の様子をご紹介。ゲストは自民党・柴山昌彦議員です。コロナ禍で急浮上した9月入学論について伺いました。

 

元文部科学大臣として9月入学論をどう見ていた?

数年前から付き合いがあるという2人。この日はどんな対談になるのでしょうか。この日のテーマは、コロナ禍で話題になった9月入学論について。

乙武氏は、「9月入学の話を最初に知ったのは報道からですか?自民党内部からですか?」と尋ねます。

柴山議員は、「新型コロナウイルスによる休校や学びの遅れが続く中、高校生のTwitterや全国知事会で『いっそのこと9月入学を推進したらどうだ』という意見が挙がり、多くの注目を集めるようになりました。私もそのような報道は見聞きしていましたが、大きな関心を持つようになったのは、私自身が秋季入学制度検討ワーキングチームの座長を岸田政調会長(当時)から拝命したからです。本格的に関心を持つキッカケになったのは、2020年3月〜4月頃にかけてと言えます」と答えました。

続けて乙武氏は、「あれだけ賛否両論が分かれている話題のプロジェクトチームの座長に任命されるというのは、政治家として『よし、やったー!』という気持ちなのか、『マズイのきちゃった』という気持ちなのか、どちらですか?」と尋ねます。

柴山議員は、「多くの方から『大変だね』と言われました。私も最初は『座長はもっとベテランの人達のほうが良いのでは?』と思いました。ただ、私は直前まで文部科学大臣として、学校現場や入学試験についての知見も沢山持っていました。ですから、『自分が火中の栗を拾うということにやりがいを持って取り組もう』と決心しました」と答えました。

秋季入学制度検討ワーキングチームの座長を任命される以前、9月入学について柴山議員はどのように思っていたのでしょうか?

「個人的には反対していませんでした。ただ、学校の卒業生による就職、会計年度など国や自治体の仕組み、卒業が遅れることによる家計の負担、必要な法律改正などを頭に浮かべた時に、大臣経験者として相当ハードルが高いと感じていました」と柴山議員は話しました。

乙武氏は、「僕も慎重派です。実際に制度を変えようと思うと色々な課題が出てくるし、それをやる余力があるならその前にやらなきゃいけない喫緊の課題が沢山ある」と投げかけます。

柴山議員は、「安倍前総理は、政権奪還時(2012年)のマニフェストに9月入学の項目を挙げていました。私が座長になれば、9月入学の話がそのまま進むと思っている人が周りにも多かった。ただ、『(当時は)新型コロナウイルスが割と早期に収束して、登校再開できるかもしれない』という考えもありました。

4月〜9月は6ヶ月間あります。『今、6ヶ月間遅らせるということを決めてしまうと、家庭学習やオンライン教育を早期に進めていこうというモチベーションがなくなってしまうのではないか』ということを考えた場合に、『賛成・反対両方の意見をしっかり踏まえて結論を出す必要がある』と思っていました」と話しました。

9月入学論が見送られるまでの経緯

柴山議員は、「ワーキングチームの役員には、文部科学大臣経験者を数多く迎えていました。中曽根内閣時代から、歴代の大臣経験者は日本の教育の国際化に思いを馳せ、9月入学を何度となく試みて議論してきた方々が多かった。そのため、今回のコロナを一つの転機として一挙に前へ進めようと考える方が比較的多かったです。

一方で、実際に留学を経験した若い方々の声を聞いてみると、経済的なハードルや人材交流をするために必要な外国語の能力、授業や演習の魅力などの課題が挙げられました。『システムではなく、そうしたソフト面での課題がグローバル化に向けて解決すべき優先度が高い』という意見も多かった。

また、公立学校を設置している自治体関係者は、制度変更に伴う様々な混乱に対して非常にネガティブな意見を持っていました。市長会などでヒアリングをしてみると、8割程度の首長さんが導入に反対か慎重という意見だった。未就学児の親御さんも、『自分たちの子どもが小学校に入学する時期が遅れてしまう』、『9月で学年が分断されてしまう』、『早生まれか遅生まれかで子どもの学びに大きな違いが生じてしまう』ということで、地元の議員さん達に働きかけをしました。

このように、9月入学に伴う問題点が段々出てきた。さらに、当事者の声が伝わるにつれて世論も慎重になってきました。2020年5月に一般の議員も含めて平場の議論を開催したところ、出席した多くの議員が反対の声を上げ、潮目が大きく変わりました」と話しました。

 

安倍前総理への進言は勇気が必要だった?

ここで乙武氏は、突っ込んだ質問をします。

「小選挙区制になって以降、官邸の力が強くなり、首相権限が強くなったと言われている。安倍前総理が前向きなことに若手が反対したり、座長の柴山さんが『やめたほうが良いと思います』と進言したりすることは、勇気がいるんじゃないですか?」

柴山議員は、「だからこそ、今回の議論のプロセスを丁寧に進めるよう私は心掛けました。9月入学制度は、国民の生活様式、仕事の仕方、教育そのものを大きく変える事業です。他国の秋季入学制度を見ても、義務教育開始年齢を日本より早く設定しているところが多い。

大学ではギャップタームという形で進める議論もありましたが、『初等中等教育においても後ろ倒しの9月入学制度を進めるためには、大きな議論が必要だ』と私は思いました。自民党のマニフェストにかつて書かれていたことであっても、現代の状況を鑑みて辞めるべきであればしっかり辞める。『今の子どもやお母さん達が予測可能な形で腰を据えて議論をすることが、日本の将来のためにもなる』と確信しました。

官邸主導や安倍一強という政治状況は承知していますが、まずは国民の皆さんの利益が優先されるべきです。『学校に行けなくなった子ども達の学びの補償は別途検討し、9月入学の議論はそれとは切り離して中長期的な視野で検討すべきだ』という提言をまとめました。そして、9月入学に前向きと言われていた安倍前総理に、私が直接提言を手渡して説明するということを追求しました」と答えました。

最後に乙武氏は、「私は9月入学慎重派だから、こういう結論になってホットしている。それと同時に、柴山さんは党内でイジメにあっていないか心配なのですが大丈夫ですか?」と尋ねます。柴山議員は、「大丈夫だと思います。それは、今後の私の状況を観察して頂ければと思います」と答えました。

柴山昌彦氏プロフィール

1965年愛知県生まれ。東大法学部卒業後、住友不動産へ入社。1998年に司法試験へ合格し、2000年に弁護士登録。2004年、埼玉8区の補欠選挙に立候補し初当選を果たす。以後当選を重ね、現在7期目を務める。外務大臣政務官、総務副大臣、衆議院内閣常任委員長、内閣総理大臣補佐官、文部科学大臣などを歴任。現在は、自民党埼玉県連会長を務めている。

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