子どもたちに「成功体験」を 閉校利活用で野球室内練習場を作った大人たちの覚悟

10月31日に完成した「PLAYSPACE YOZEI」の様子【写真提供:PLAYSPACE YOZEI】

少年野球の環境整備は大人の使命と責任

鹿児島県の薩摩川内市に閉校となった小学校を利活用した室内練習場「PLAYSPACE YOZEI」が10月31日に完成し、話題を集めている。野球少年が一度見たら「自分の家の近くにあったらいいのに……」と思えるような場所だ。作り手の思いは、子どもの明るい未来を願う少年野球指導者と同じかもしれない。

ニコニコして体を動かす姿。ワイワイ練習する姿。野球を楽しむ子どもたちを思い浮かべながら、計画を進めていた。株式会社FRONT-A代表取締役社長の福永幸央さんは、地元に室内練習場をつくる使命と責任を感じていた。

「1人でも多くの子どもたちがバッターボックスに立つ機会をつくりたいと思っていました。地元から甲子園の打席に立つ選手を送り出せたら、うれしいですよね」

福永さんは薩摩川内市で生まれ育った。小学生の時にソフトボールを始め、高校では硬式野球部に入った。現在小学6年生の息子も、父の背中を追うように3年ほど前からソフトボールを続けている。息子と一緒に体を動かし、息子の成長を見るのが、福永さんの楽しみとなっている。ある日、その息子が少し悲しげに口を開いた。

「雨が降ると練習する場所がないね」

福永さんは、息子の言葉で高校球児だった約20年前を思い返した。当時も雨が降ると練習できず、校舎の階段を駆け上がったり、廊下や教室で筋力トレーニングをしたりしていた。「あの頃と状況が変わっていないと思いました」。練習したくても場所がない歯がゆい記憶がよみがえった。大人が状況を変えなければいけない。福永さんは、地元で閉校になった小学校の体育館を改修して、室内練習場をつくろうと決意。同時に5か所で打撃練習ができる施設を設計した。

完成した施設に込められる大人たちの覚悟

使命感と同時に危機感も抱いていた。少子高齢化に伴い、薩摩川内市も野球人口が減っている。福永さんが通っていた地元の高校は野球部員数は減っているという。

「野球をする子どもは減っています。息子が所属するソフトボールチームの子どもたちも少なくなってきている。野球の楽しさを広げ、小さい子どもたちも利用できる施設にしたいです」

思いを込めた設計を形にするため、福永さんは東京都で野球用品の製造・販売をしている「フィールドフォース」に協力を求めた。フィールドフォースは空き店舗などを改修し、都内や北海道に室内練習場をつくってきた実績がある。吉村尚記代表は「会社の本業はモノづくりですが、野球が気軽にできる場所を増やして、野球人口を回復しなければいけないと思っています」と語る。

子どもの数が減っていることに加えて、子どもたちには野球以外の選択肢が増えている。野球人口を増やしていくのは簡単ではないが、吉村代表は難題に挑んでいる。

「1人でも多くの子どもたちに成功体験をしてほしいんです。野球は打率3割で好打者と言われるほど、失敗が多いスポーツ。失敗を恐れずに続けることで、目標を達成できると伝えたい。野球用品を販売して終わりではありません。環境を整備することも我々の使命だと思っています」

野球少年・少女の未来をつくる。完成したばかりの室内練習場には、大人たちの覚悟が詰まっている。

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