メタリカ『Garage Inc.』解説:バンドが原点回帰を試みたカヴァー・アルバム

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メタリカは常に自分たちに影響を与えたものを公然と示してきたが、『Garage Inc.』はそれらの多くに改めて敬意を表する機会だったといえる。1998年に発売された『Garage Inc.』に先立って発表したアルバム『Load』(1996年)と『Reload』(1997年)、そしてそのプロモーションを兼ねたワールド・ツアーで『Garage Inc.』の構想は生まれた。

円形のステージで演奏し、最後は照明器具が崩壊するという壮大なフィナーレが用意されたそのツアーには、簡素なセットでアンプの周りに集まりパフォーマンスをするという演出も用意されていた。そこでバンドが披露したのが、面々のお気に入りの楽曲のカヴァー・ヴァージョンだったのだ。そして1998年にツアーの行程を終わらせると、彼らは、そうしたカヴァー曲で構成されたアルバムの制作を思い立ったのである。

しかし『Garage Inc.』には自身の歴史に敬意を払うという意味合いも込められていた。アルバムのタイトルはグループのサード・アルバム『Master of Puppets』に収録されている「Damage, Inc.」のタイトルをもじったもの。そのコンセプトは、1987年にリリースされたEP『The $5.98 E.P. – Garage Days Re-Revisited』にいまいちど立ち返ったものだった (廉価でリリースされたこのEPは長いあいだ廃盤だった) 。そしてアルバム・ジャケットには、バンド・メンバーがほかの人々と変わらない普通の人間として描写されている。つまり自分たちの原点に回帰したのである。

<YouTube:メタリカ『Garage Inc.』全曲>
 

「それまでとまるで別のことをやってみたいと思った」

メタリカの意図はシンプルだった。メタルハマー誌でラーズ・ウルリッヒはこのように説明している。

「俺たちはしばらくのあいだカヴァーに手を出してこなかった。けれども『Load』と『Reload』をほとんど立て続けに作って、カヴァーに挑んでみるちょうどいいタイミングなんじゃないかと思ったんだ。時間的な観点と、創造力的な観点の両方からね。とにかく細かいことは気にせずに、もう少し気楽で、もう少し馬鹿だったころに戻ってみようと思った。何かほかのことをやりたいっていう気持ちがわいてきたんだよ」

そうして、入手困難だったいくつかのB面とEPを加えて、ジャケットも新たにこの2枚組アルバムが生まれた。ディスク1はメタリカというバンドの形成を象徴するもので、ディスク2は彼らの核心部に迫ったものだ。

強烈なメタリカらしさ

オープニングを飾るのは、イギリスのクラスト・パンク・バンド、ディスチャージの「Free Speech For The Dumb」で、この混沌としたトラックがアルバムのトーンを決定づけている。続く「It’s Electric」で、メタリカの結成とキャリアに誰よりも大きな影響を与えたといっていいNWOBHMのレジェンド、ダイアモンド・ヘッドのレパートリーのカヴァー・ヴァージョンだ。

そして次の曲は、ヘヴィメタルの生みの親ブラック・サバスに敬意を表した「Sabbra Cadabra」である。ディスク1にはほかにミスフィッツの「Die, Die My Darling」、マーシフル・フェイトの代表曲のメドレー「Mercyful Fate」、再びディスチャージのレパートリーからの「The More I See」などが収録されている。その大半は、彼らが聴き馴染み、影響を受けた作品で、これらのカヴァー曲を聴いていると、大きな成功を収めたメタリカの面々が、バンドを結成した10代のころとさほど変わっていないように思え、嬉しくなってくる。

一方、ツアー生活を称えたボブ・シーガーのカントリー・ロック・ナンバー「Turn The Page」、ニック・ケイヴの「Loverman」、ブルー・オイスター・カルトの「Astronomy」、シン・リジィの「Whiskey In The Jar」やレーナード・スキナードの「Tuesday’s Gone」といった曲は、『Load』、『Reload』という2作のアルバムにバンドがどんな心構えで臨んでいたかを紐解くヒントになっている。

ともあれ、アルバムを通してメタリカならではの持ち味が強く感じられ、ジェイムズ・ヘットフィールドならではの唸るような歌声も全篇で楽しむことができる。また原曲そのままのリラックス・ムードが横溢する「Tuesday’s Gone」にはゲイリー・ロッシントン (レイナード・スキナード) 、ジェリー・カントレル、ショーン・キニー (アリス・イン・チェインズ) 、ジョン・ポッパー (ブルース・トラヴェラーズ) 、レス・クレイプール (プライマス) 、ジム・マーティン (元フェイス・ノー・モア) 、ペッパー・キーナン (ダウン、コロージョン・オブ・コンフォーミティ) らが客演。キーナンは、ヘットフィールドとリード・ヴォーカルを分け合っている。

再リリースが待ち望まれていた作品

『Garage Inc.』のディスク2には再リリースが待望されていトラックが纏められている。長きに亘ってステージの定番になっているミスフィッツの「Last Caress」を含む『The $5.98 E.P. – Garage Days Re-Revisited (メタル・ガレージ) 』からの5曲、そして同作に先立ってリリースされた”Garage Days Revisited”と総称される一連のカヴァー曲。後者にはダイアモンド・ヘッドの「Am I Evil?」、ブリッツクリーグの「Blitzkreig」、バッジ―の「Breadfan」、クイーンの最もヘヴィ・メタリックなナンバー「Stone Cold Crazy」、そして、アンチ・ノーウェア・リーグの傲慢で攻撃的な「So What」のカヴァー・ヴァージョンが含まれている。ディスクを締め括るのは、モーターヘッドのヒット・ナンバー4曲のカヴァーだ。

ヒット・チャートでの成功を意図したアルバムではなかったにもかかわらず、『Garage Inc.』は、1998年11月24日のリリースと同時に全米アルバムチャートで2位を記録。最終的に400万セットを売り上げた。

Written By Caren Gibson

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メタリカ『Garage Inc.』
1998年11月24日発売