【社会人野球】「当たって砕けろ」が生んだ力づくの金星 都市対抗で“前年王者=初戦敗退”が続くワケ

開幕戦でHondaを破ったJR東日本東北【写真:小林靖】

同点の7回無死一塁から強攻、一発など長打連ね快勝

社会人野球の頂点を争う第92回都市対抗野球が28日、東京ドームで開幕した。2年ぶりの出場となるJR東日本東北は、昨年の大会で優勝したHondaと開幕戦で対戦、5-3で金星発進を果たした。2-2の同点で迎えた7回に、3本の長打で3得点。驚きの“ビッグベースボール”で、豪快に投げ飛ばしてみせた。

相手は前年王者という強豪。飲み込まれては勝利が遠ざかる。JR東日本東北はHondaとの対戦にあたり、どう自らが流れを作るかを考えていた。「思い切って向かっていくだけ。ちょっと気楽に、当たって砕けろでやれたのが良かったんじゃないですか」と試合後、西村亮監督の舌もなめらか。「持ってる力を出してくれた」と満足げだ。

先発したルーキー・竹本祐瑛投手は初回、初めての東京ドームで固いマウンドに面食らい、2四死球を出したもののすぐに適応した。来秋のドラフト候補にも名の挙がる身長186センチの大型右腕は「持ち味で勝負できた。ストレートで押せたのが良かった」。140キロ台後半の直球を制球良く決め、ゲームを支配していった。

すると、打線が力投に応えた。2-2の7回、先頭の大保優真内野手が中前打で出塁。同点の終盤と考えれば、送りバントも選択肢の1つだ。ところがここで「3番・中堅」の鈴木聖歩外野手は強攻から左中間に2ラン本塁打し勝ち越し、1死後「5番・DH」の石井信次郎捕手(七十七銀行から補強)が中堅フェンス直撃の二塁打、続く安西聡外野手も中越えに適時三塁打し計3点を挙げた。犠打どころか、3本の長打で王者を振り切ってみせた。

バントだけではない「無死一塁でどう走者を進めるか」

鈴木は「今年はバントのサインが出ることが本当になくて、無死一塁でどう走者を進めるかを考えてやってきた」と決勝弾への過程を振り返る。走者を進める方法は、アウトを1つ与えてしまう犠打だけではない。チームとして、コンパクトに逆方向へ打って出て、走者をさらに貯める方法を考え抜いてきた。ドームの大舞台で、練習は最高の形で実った。

前年の王者が、1回戦で姿を消すのはこれで3年連続だ。昨年はJFE東日本、一昨年は大阪ガスが散った。予選なしで出場できる代わりに補強選手が使えないという戦力上の理由もあるが、各チームに目標にされ、どうしても受けて立つ側になってしまうのも原因だろう。鈴木も「こっちからどんどん行くぞという感じで、試合には入れてはいましたね」と打っても守っても“攻めまくって”の勝利を強調した。

今年は2011年の東日本大震災から10年という節目に当たる。チームの本拠がある宮城県は大きな被害を出した。運輸業という特性上、当時の部員たちも震災復興に携わった。夏から秋に時期を移し、何とか行われた都市対抗では、エース・森内壽春投手(元日本ハム)が大会史上2度しかない完全試合を成し遂げ、4強入りを果たした。

東北高出身の鈴木は、桐蔭横浜大を経て仙台へ戻り3年目。「地元に帰ってきて、家族も友達も応援してくれている。明るい気持ちや勇気を与えていこうと思ってやっている」と故郷への思いを口にする。再びの快進撃が見られるか。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)

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