16歳、CMデザイン手掛ける青春 “普通”の高校生活に憧れも 通信制高生の橋本さん

通信制高校に通いながら、県内企業のCMやロゴなどのデザインを担当している橋本さん=長崎市内

 長崎市に、県内企業のCMやロゴなどのデザインを手掛ける16歳がいる。通信制のN高校1年、橋本穰さん。学校に毎日通って勉強や部活をする“普通”の高校生活とは、ちょっとだけ違う道を選んだ。「普通というか、そんな多数派の生活には僕も憧れるんですが…」。それでも彼が選んだやりたいこと、とは。

■相 棒

 「仕事も勉強も趣味も、これ1台です」。市内のカフェ。橋本さんはそう言って、バッグからタブレット端末を取り出した。専用のイラストソフトを使い、デジタルの絵を描くことができる。今年の春以降、この“相棒”と共に、数件の仕事を引き受けてきた。
 最近の仕事が、11月から県内で放映されている自動車販売業「長崎車輌センター」(西彼時津町)のテレビCM。車窓から見える長崎の街並みや海辺の映像に、車の部品などが組み合わさった架空のキャラクターが次々と現れる。橋本さんはこのキャラデザインを担当した。
 依頼を受けたのは今年の初め。同社の高木重寛社長(56)から示されたイメージも踏まえ、子どもが車窓の外を眺めた時の「ワクワク感」を表現しようと、子どもにしか見えない機械の「おばけ」の設定で13体のキャラを生み出した。

テレビ放映されている「長崎車輌センター」のCMのワンシーン。車窓から眺める稲佐山の映像に、橋本さんが創作したキャラクターが現れる

■空 想

 実写の風景映像などを撮り終えた後の6月ごろから本格的にキャラを制作。9月までの約3カ月間、高校の課題をこなしながら、映像監督らと細かい調整を繰り返して完成させた。
 空想の世界を表現するのが好きだという橋本さん。「自分の描きたいものと合っていた」と手応えを感じつつ、膨大な作業量に「部下がほしかった」と笑う。同社にとっても初めて制作したテレビCMで、高木社長は「想像力豊かに、私のイメージをうまく表現してくれた」と喜ぶ。
 絵を描くのは幼い頃からの趣味。父親が会員制交流サイト(SNS)上で作品を紹介するたびに、完成度の高さに注目が集まった。昨年、作品が市中心部のアーケードで展示されたこともきっかけとなり、父親を介してさまざまな制作依頼が入るようになった。

■自 分

 進学先の高校を選ぶ時、創作活動の時間を確保しつつ、勉強と両立したいと考えた。そこで選んだのが、自分の時間を自由につくることができる通信制高校。今年に入り、IT企業が進めるプロジェクトのイメージ図や、社会福祉法人のロゴなども制作してきた。
 仕事以外でも、趣味で描いたイラストなどをSNSに投稿。ピアノも大切な趣味の一つで、アーケードのストリートピアノを弾いている時に出会った高校生とユニットを組み、ぼちぼち活動している。
 一方で「ふと自分は何をやっているんだろうと思うこともある」。仕事関係者との打ち合わせを終えた後に、SNSを見て、同じ時間帯に中学時代の同級生らが焼き肉店で盛り上がっていたと知ったことも。「同じような青春がしたい」と、憧れのような感情を抱くことは正直あるという。
 勉強と仕事を両立する16歳。「すごいね」と褒められることもあれば、「変わった人」と言われることもある。それでも「みんなと違うこと、自分にしかできないことをやっているからいい」。今はそう思える。


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