「カッコよくあれ」中学野球に新風を吹かす 新生硬式チームが挑む新たな形とは?

試合で大きな笑顔を弾けさせる茅ヶ崎ブラックキャップスの子どもたち【写真提供:茅ヶ崎ブラックキャップス】

デポルターレクラブ代表・竹下雄真さんが地元・茅ヶ崎で奮起

コロナ禍の真っ只中にあった2021年春。神奈川県湘南エリアを代表する茅ヶ崎で、新たな中学硬式野球チームが産声を上げた。それが「茅ヶ崎ブラックキャップス」だ。日本ポニーベースボール協会(以下、ポニーリーグ)に所属するチームのメンバーは1年生だけ14人。小学生の時に同じチームだった11人と隣のチームにいた3人で、新たな一歩を踏み出した。

チームを立ち上げたのは、東京・西麻布にあるパーソナルトレーニングジム「デポルターレクラブ」代表でパーソナルトレーナーを務める竹下雄真さん。地元・茅ヶ崎で少年野球に励む息子とそのチームメートたちが置かれた状況に動かされた。

「去年、小学6年だった息子が中学生になったらどこで野球をするか考えた時、学校の部活は人数が足りない。だったら、湘南地区にある名門硬式野球チームかというと、150人以上も部員がいる中でやっていくのは野球の力として厳しい。そんな時に他の親御さんからも『チームを作ってくださいよ』という声をいただくようになりました。最初は冗談だったと思うんですけど、作る流れになってしまいました(笑)」

デポルターレクラブでは、フィジカルの専門家として野球以外にも幅広い競技のアスリートに対し、最先端の知識を生かしながらトレーニング、栄養、ケアなどの面からトータルなサポートを提供してきた。それだけに、いざチームを作るとなった時、伝統に縛られない新しい形の中学硬式野球チームを目指したのは自然な流れだったのかもしれない。

「野球の上手な子をたくさん集めれば、誰がやっても強くなります。でも、僕たちはそこにはあまり興味はないんです。いわゆる野球エリートではない子どもたちが、正しい指導やフィジカルの専門家と出会うことでどこまで強くなれるのか。野球エリートを相手にジャイアントキリングを起こせるチームを作ることがコンセプトですね」

豪州でのプレー経験を持つ阪口監督はプロ指導者として子どもたちと向き合う(右)【写真提供:茅ヶ崎ブラックキャップス】

フィジカルの専門家たちが子どもたちを指導「多様性を持って」

活動場所は、茅ヶ崎に拠点を置く文教大学湘南キャンパスがグラウンドを提供してくれた。監督を務める阪口泰佑さんはオーストラリアリーグの野球経験を持つパーソナルトレーナーで、コーチ陣も野球経験者ばかり。専属マネージャーもいるため、父兄によるお茶くみ当番制はない。時には、デポルターレクラブから陸上トレーニングの専門家がやってきて走り方の指導をしたり、栄養の専門家がやってきて食事についてのアドバイスを送ったりもする。

「僕も高校まで野球をやっていましたが、今は野球界に何のしがらみがない立場。だから、僕が思うベストにチャレンジしていくだけなんです。僕は仕事でいろいろな競技のアスリートと接してきたおかげで、それぞれの世界の考え方を知ることができました。野球界では常識なことが他では非常識だったり、サッカーでは十分というトレーニング量が他競技では足りなかったり。野球が上手くなってほしいけれど野球の枠には囚われず、高校に行って他のスポーツで能力を発揮できるようになってもいいと思っていますし、スポーツ以外でも社会で活躍できるような多様性を持ってもらいたいですね」

規模の大きいボーイズリーグやシニアリーグではなくポニーリーグに加盟したのも、リーグをあげて中学硬式野球に新風を吹かせようという姿勢に共感したからだ。

「非常に柔軟性があって素晴らしいリーグ。野球は試合に出て学ぶという方針で、3年生だけではなく、1年生にも2年生にもリーグがあって、2年生のリーグに出られない子は1年生のリーグに出てもいいとなっている。そういう柔軟性があるからこそ、僕らのスタイルを貫けたところはあります」

茅ヶ崎ブラックキャップスではユニホームを膝丈にしてストッキングを穿くスタイルに限らず、プロ野球選手やメジャーリーガーのようなロングパンツを選択肢の一つとして採用。ポニーリーグの許可も得て、公式戦でも着用している。

「そもそも、なんで中学生はロングパンツが禁止されているのか不思議だったんですよ。子どもたちはプロ選手のロングパンツ姿に憧れてカッコいいと思って野球を始めるのに、いざチームに入ったらストッキングを穿くオールドスタイル。あのスタイルが好きで選択しているならまだしも、外の世界から見ると『なんで?』と思ったんです」

型がなければ型破りにはなれない…茅ヶ崎が用意する型とは

野球界の枠に囚われない自由な発想がチームの基盤になってはいるが、子どもたちを指導する際はまず「型」を意識するという。そこには元サッカー日本代表・岡田武史さんから教わった「型がなければ型破りにはなれない」という“守破離”の考えがある。

「例えば、FCバルセロナ出身の選手は自由にプレーしているように見えるけれど、実はまずはバルセロナの型を身につけてから、それを破って離れていくんだと仰有っていました。だから、最初はある程度の型を作ることが大事。挨拶をすることだったり、守備位置までダッシュすることだったり、茅ヶ崎の型があって、それを選手たちが破って離れていくことが理想だと思います。いきなり子どもたちに自由にやれというのは、逆に無責任だとも思います」

それでは、茅ヶ崎ブラックキャップスは子どもたちにどんな型を用意するのか。「カッコいいこと、ですね」と竹下さんは笑顔を浮かべる。

「カッコいいと言っても色々定義はあると思います。ユニホームの着こなしであったり、試合用の帽子を普段から被らないことであったり、見た目ももちろん大事ですけど、やっぱり行動としてカッコ悪いことはするなと言っていますね。例えば、一度始めたことを簡単に諦めたり、負けてもヘラヘラしていたり、太陽が目に入ったと言い訳したり、そういうのはカッコ悪い。そもそも、試合に勝てないのもカッコ悪いことなので、子どもたちには『だから勝ってカッコよくなろうぜ』と言っています。今のメンバーが3年生になる頃には戦えるチームになればいいかな、と」

シーズン1年目が終わりに近づき、現在は来春に向けて2期生を迎える準備を進めているところだ。メンバー募集は茅ヶ崎市在住・在学者に限定される予定だが、痛快なジャイアントキリングを一緒に起こしたいという仲間が増えることを願っている。そして2年後、創立メンバーでもある1期生14人がそれぞれにどんなカッコよさを身につけ、羽ばたいていくのか。茅ヶ崎ブラックキャップスの挑戦は始まったばかりだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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