V長崎 2021年シーズン総括 及ばなかった「クラブ力」 緻密なチーム編成を

今季の順位推移グラフ

 サッカーJ2、V・ファーレン長崎の2021年シーズンは4位で幕を閉じた。序盤の出遅れが致命傷となり、一度も2位以内に浮上できなかった。J1昇格を決めた磐田と京都に、チーム力よりもクラブ力の面で差を突きつけられた。

 フロントに隙

 V長崎は昨季3位の手倉森誠監督を解任し、吉田孝行コーチを監督に内部昇格させてスタートを切ったが、ふたを開けてみると大苦戦。吉田氏も早々と解任を余儀なくされた。緊急登板した松田浩監督が急ピッチで立て直し、第13節以降は磐田に次ぐ勝ち点を獲得したことを踏まえれば、昇格に値する能力を十分に持っていたと言える。
 チャンスの年を逃してしまった発端を探ると、昨年12月18日の手倉森氏解任までさかのぼる。コロナ禍で年末までリーグ戦が組まれ、かつV長崎は最終盤まで昇格争いを繰り広げていたため、解任の判断がどうしても遅れた。舞台裏では、リストアップしていた外国人監督で話がまとまらず、後釜選びに苦心。一度は打診を断った吉田氏も、最後は首を縦に振る以外に道がなかったのが正直なところだ。
 とはいえ、コーチ業で結果を出していた吉田氏への期待は少なからずあった。監督経験の浅い指揮官がもし昇格を果たしていたら、今ごろヒーローとして一躍注目を浴びていたはず。ただ、現実はそうならなかった。力不足は否めず、それ以前の問題として人事決定権を持つフロントの見通しの甘さが目についた。
 強いチームが勝つとは限らないJ2はたびたび「魔境」とも表現され、選手や監督の力量はもとより、現場とフロントのスクラム態勢、ファンの後押し、地域の盛り上がりなど内外のあらゆる要素がそろわない限りJ1昇格は難しいとされる。実際に、19年にJ1だった松本は昇格どころか今季最下位に沈み、20年に首位争いをしていた北九州も21位でJ3降格が決まった。
 その点、優勝した磐田は在籍年数の長い選手を複数擁するだけあって目指すサッカーが明確だった。夏に主力が欧州移籍しても、すかさず補強する用意周到ぶり。チームに隙がないだけでなく、クラブとして隙がなかった。同じく昇格を決めた2位京都は、湘南を3度J1に昇格させた曺貴裁監督を、教え子の松田天馬とセットで獲得。水戸から長谷部茂利監督と前寛之を呼び寄せて今季J1復帰を果たした福岡と同じ手法がはまった。

今季途中からの緊急登板ながらV長崎を立て直した松田監督(中央)。来季も続投する=諫早市、トランスコスモススタジアム長崎

 長崎スタイル

 J2に降格した19年以降の3年間、資金を投入して結果が得られなかった反省や、コロナ禍の収入減も影響して来季の強化費は目減りする見込み。その中でもJ1昇格を掲げることに変わりないが、チームづくりにもう少し長期的な視点が加わるだろう。
 V長崎は高木琢也監督が植え付けた「堅守速攻」を見直し、19年からの手倉森体制下で「ポゼッション」を掲げて再出発した。今季は攻撃的サッカーをさらに進化させるべく臨んだが、結果が出ずに再度「堅守」へ。つまりV長崎にはまだ確固たるチームスタイルがない。これを機に「V長崎スタイル」を改めて見つめ直し、多少のことでは揺るがないような基盤づくりがクラブにいま求められている。
 こうした問題はクラブも把握し、すでに強化部門のてこ入れに着手。新たな要職の設置も視野にチーム編成の在り方を検討している。
 松田監督の続投は決まったが、今オフで選手は少なからず入れ替わる模様。いずれにしろ「降格4年目」となる来季は、悔しさが続く近年の反省を踏まえて新たなステージに入る。


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