民間人、宇宙へ

 宇宙飛行士の向井千秋さんは23年前、スペースシャトルの機中で「上の句」を詠んだ。〈宙返り 何度もできる 無重力〉。この続きをどうぞ、と募集したら、全国から14万を超える下の句が寄せられた▲のちに最優秀作に選ばれた小学4年の女の子の作は〈水のまりつき できたらいいな〉。50代の女性は〈乗せてあげたい 寝たきりの父〉。ほかにも〈ラッコになったり 天女になったり〉と、無限に夢想を膨らませている▲向井さん自作の下の句は〈着地できない このもどかしさ〉。無重力とは楽しくもあり、不便でもあるらしいが、それも体験者だけが肌で知る感覚に違いない▲宇宙からさて、どんな“実感”が届けられるのだろう。日本初の民間人として、実業家の前沢友作さん(46)が国際宇宙ステーションへと飛び立ち、12日ほどの滞在が始まった。動画が配信されている▲宇宙ビジネス時代の幕が開いたといわれるが、今は高額すぎて市民にはまだまだ遠い。宇宙に関心を寄せ、いくらか身近に感じてもらうのが前沢さんの望みらしい▲「バドミントン対決をする」「魔法のじゅうたんに乗ってみる」など、事前に募集した「宇宙でやってほしい100のこと」に挑むという。かつての「下の句」の夢想も含まれるだろうか。現実のものになるといい。(徹)

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