北海道の少年野球で囁かれる「小3問題」 “選手ゼロ”の町村も「その事実は衝撃的」

岩見沢南ビクトリー・坂下監督【写真:石川加奈子】

地域のチームが初出場で全国3位、岩見沢南ビクトリーの坂下賢一監督が語る現状

8月に新潟で行われた「高円宮賜杯 第41回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」に初出場して3位入賞した岩見沢南ビクトリー(北海道岩見沢市)は、昔ながらの地域のチームだ。ほかの地方都市と同じように競技人口の減少に悩む中、どのようにチームを運営し、指導に当たっているのだろうか。岩見沢南小の教員でもある坂下賢一監督に話を聞いた。

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今夏に快進撃を見せたチームには、6年生が10人いた。「それが大きいですね。体も大きくなったので、打撃練習に力を入れました」。昨冬から打撃マシンを使って打ち込み量を増やした。冬の期間に行う週3日の平日練習は、学校の体育館を利用。硬式テニスボールを用いたマシン打撃のほか、タッチプレーや牽制プレーなど省スペースでできる練習を行う。週末には近くの室内練習場を借りて実戦練習を行い、個々が課題を見つける。20代のOBコーチが2人おり、保護者も用具運搬や練習補助などでサポートする。

1学年違えば、体格もかなり変わる。大柄な6年生のパワフルな打撃が躍進を支える一方、坂下監督は「ちょっと上手い下級生より、頑張ってきた最上級生の意地」を改めて実感したという。今夏は心身ともに充実した6年生が主体となって力を発揮した格好だが、毎年それだけの数の最上級生が揃うわけではない。現在は5年生5人、4年生7人、3年生が4人というメンバー構成だ。

選手は岩見沢南小の児童が中心で、野球少年団がない岩見沢市内の小学校からも受け入れている。近年増えてきた地域を限定せずに広く受け入れるチームと違って、選手確保は容易ではない。坂下監督は「昔は何もしなくても選手が入ってきました。その後は体験会を通して入ってくれましたが、今や体験会をやっても、人数を集めることは厳しくなってきています」と現状を明かす。

現在55歳の坂下監督が最初に岩見沢南小に赴任した30年ほど前、少年チームは市内に10チームあったが、現在は5チームに半減。以前は1校1チームが当たり前だったが、今は1校だけでは成り立たない。郡部に行けば、さらに顕著だという。「昔はどこの学校にもチームがありました。今は野球少年がひとりもいない町村も出てきています。その事実は衝撃的です」と憂う。

野球少年は減少も…「15年くらい前から高校野球到達率は高くなっている」

もうひとつ、北海道の少年野球指導者の間で囁かれているのが“小3問題”だ。「今年の3年生大会の様子を聞くと、去年よりも圧倒的に連合チームが多くなっています。この9歳、10歳の子が高校野球に上がる頃には、ものすごい異変が起きているんじゃないでしょうか」と危惧する。

野球少年は急激に減っているが、卒業後も野球を続けている選手は増えているという。「年代によって違いますが、昔は高校野球までは、卒団生の2、3割だったのが、最近は半分を越え多いときは8割、そして全員という年もあります。10年くらい前から高校野球到達率は高くなっています」と実体験として語る。

その要因として、出場機会の増加を挙げる。競技人口が減ったため、個々の出番が増え、勝つ喜びや負ける悔しさを味わうようになった。「勝つ喜びがわからない子たちは、能力が高くてもやめていきますね。ただ、最近は選抜チームという取り組みもあるので、なかなか勝ちに恵まれなかったチームにいた能力の高い子が選抜チームに参加して、刺激を受けて続けるケースも増えています」。

少子化の波が押し寄せる中で、野球の“入り口”を担う指導者としてできることは何か。学童世代は、プロ野球を頂点とした球界の大事な裾野を担う。その答えを探し続ける坂下監督は「何かのきっかけで入ってきてくれた子どもたちを大事に育てることがすごく大事ですよね。その子たちが中学や高校にたどりついてくれたら」と願いながら、毎日野球少年少女と向き合っている。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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