子どもたちに伝える「質問の大切さ」 元近鉄選手が米マイナーで気づいた育成論

関メディベースボール学院・井戸伸年総監督【写真提供:関メディベースボール学院】

「大人が変われば子どもが変わる」能力を伸ばす環境の大切さ

元近鉄の井戸伸年氏は現在、兵庫県西宮市にある「関メディベースボール学院」で総監督を務めている。ジュニア世代を指導する時に大切にしているのは「質問力」。近鉄入団前にプレーしていた米マイナーリーグでの衝撃的な経験が、指導の礎となっている。

「関メディベースボール学院」には、大学や社会人入りを目指す「野球選手科」と「高等学校通信科」に加えて、「中等部」や「小学部」がある。中等部の卒業生には全国の強豪校に進み、甲子園に出場した選手も数多い。全体を統括しているのが、井戸伸年総監督。大学、社会人を経て、2002年のドラフトで近鉄から指名され、プロで3年間を過ごした。学院では2006年からコーチを務め、監督やGMを歴任している。

社会人のHonda鈴鹿でもコーチ歴がある井戸総監督だが、ジュニア世代を指導する難しさを日々、感じているという。「(元ヤクルトの)野村克也監督が少年野球を教えるのが一番難しいとおっしゃっていたのがよく分かる。技術を高めるには理解させるのが一番大事。ジュニア世代には、1人1人に応じた伝え方をしないと、話や技術を吸収してもらえない」。井戸総監督が重要視しているのは「質問力」。実は、自身の現役時代の経験がベースにある。

井戸総監督は近鉄にドラフトで指名される前年、ホワイトソックスとマイナー契約している。メジャーには昇格できなかったが、マイナーでの体験が指導者の糧となった。

米マイナーで見た衝撃の場面「打撃コーチの前に選手が行列」

「全体練習の前にアーリーワークがあって、グラウンドに行くと、打撃コーチの前に選手が並んでいる。日本ではあり得ない光景で衝撃的だった」。

選手たちは、コーチの指導や助言を受けるために列をつくっていた。熾烈な競争を勝ち抜くために、貪欲に知識や技術を吸収し、自分の力を首脳陣にアピールする。井戸総監督は「コミュニケーション能力の違いを痛感した」と振り返る。そして、現在指導する小・中学生には「学校の勉強と野球の技術は比例する。分からないことを分かりませんと言えないと、学校の授業は理解できない。コーチが全体に話をしても、分かっていない子どもが多いと思う。そこを変えていかないといけない」と質問する大切さを伝えている。

質問する力やコミュニケーション能力は、野球以外にも生きる。ただ、子どもたちの力を伸ばすには、環境をつくる大人の役割が重要だと井戸総監督は訴える。

「大人が選手の状況を理解して、声をかけるタイミングなどを見極めることが大切。子どもたちは声を出せと言われても、声の出し方が分からないかもしれない。大人が主導で動けば子どもたちは理解できるし、真似できる。大人が変われば子どもが変わる」

井戸総監督は「今、思うといいことをたくさん言われてきたのに、当時は理解できなかったり、受け入れられなかったりした」と現役時代を思い返す。自身の反省や米国での経験を無駄にせず、第2の野球人生で子どもたちに還元している。(間淳 / Jun Aida)

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