【大学野球】京大が強豪大と渡り合えるようになった訳 元鷹・近田新監督が与えた“きっかけ”とは

京大・近田怜王監督【写真:本人提供】

「京大は0か100でいい、無難はいらない」

関西学生野球リーグに所属する京大が来シーズン、台風の目になるかもしれない。2019年秋には同大初となるリーグ4位になった“秀才軍団”の躍進には、新監督に就任した元ソフトバンク・近田怜王氏の存在があった。他大学と互角に渡り合える投手陣の成長とは――。

2000年秋から万年最下位に沈んでいたチームが変貌を遂げたのは、2019年秋。同大新記録となる1シーズン5勝、年間7勝をマークした。その後も“甲子園組”が集まるライバルに立ち向かい接戦を繰り広げている。2017年からコーチとして指導を続けた近田新監督も、その成長を実感している。

「投手陣のスピードは確かに上がっています。指導した当初から伝えたのは『まずストレートをしっかり投げなさい』でした。とにかく投げてみろと。思っているほど簡単に打たれないことを分かって欲しかった」

毎年のようにドラフト指名される選手が在籍する強豪私学を相手に“逃げの投球”を続け、痛打される。この状況を打破したかった。「球速じゃなく、しっかり腕を振って投げること」。真っすぐでファウルを取れるようになれば、次の段階では1つの変化球を試合で使えるように仕上げていく。1歩ずつ確実にステップを踏み、自信をつけていった。

「上のレベルを突き詰めればきりがないですが、投手は真っすぐと1つの変化球があればある程度の試合は作ることができる。練習、試合できっかけを掴んでもらいたかった」

勿論、体力面や技術面でのトレーニングも並行し、ラプソードなどを使い科学的に投球も分析。根拠のある練習とメンタル面を突き詰めていけば、伸びしろのあった選手の成長は早かった。

京大・水口創太【写真:京大野球部提供】

ソフトバンク時代に千賀を自主トレに「一流の選手と触れ合い、吸収することで何か変わるかも」

何かひとつのきっかけで選手は劇的に変化する。ソフトバンク時代もその瞬間を間近にみてきた。2010年に育成ドラフト4位で入団した千賀滉大投手。可愛がっていた後輩を2012年1月に中日・吉見一起投手らが参加する自主トレ合宿に初めて参加させた。

「入った当初からえげつない球を投げる。後輩でしたがこれは凄い投手になると。一流の選手と触れ合い、吸収することで何か変わるかもしれない。きっかけがあればと思っていた」

その予感は見事に的中。150キロを超える直球、落差の大きい“お化けフォーク”を武器に一気にブレークし、今では日本を代表する投手に成長した。

現在のチームでも今秋のリーグ戦で水口創太(3年)が同大史上最速となる152キロをマークするなど、投手陣のスピードは過去に比べると格段に上がっている。試合を重ねるごとに力をつけることは認めつつも「まずは自分たちを信じ切れるか。優勝といいながら『これは勝てないなぁ』という言葉が出るのも事実」と課題も口にする。

西日本屈指の大学が集うリーグで勝ち抜くのは容易ではない。それでも無限の可能性を秘めた“秀才軍団”を率いる指揮官は「今がめちゃくちゃ楽しい。京大は0か100でいい。無難はいらない」と、来春のデビュー戦を心待ちにしている。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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