「NOW!」(1963年・impulse!) 自身のスタイル貫く 平戸祐介のJAZZ COMBO・9

「NOW!」のジャケット写真

 今回紹介するのは、音楽にこだわるジャズ喫茶の店主の間でも「嫌い」という人はめったにいないほど、日本のジャズファンに愛されているサックス奏者ソニー・スティット(1924~82年)です。
 スティットは、モダンジャズの革命児と呼ばれる同年代のサックス奏者、チャーリー・パーカーに大きな影響を受けました。しかしそのため、デビュー当初は、「パーカー信奉者」というレッテルを世間から貼られてしまい、窮屈な活動を余儀なくされます。
 そのため、パーカーと同じアルトサックスからテナーサックスへ楽器を持ち替えイメージ刷新を図りますが、やはりアルトサックスへの情熱は捨てられず、「アルトサックスとテナーサックスの二刀流奏者」として有名になりました。
 そこからスティット自身も吹っ切れたのか、オスカー・ピーターソン(ピアノ)、ディジー・ガレスピー(トランペット)、マイルス・デイビス(同)らと共演し、良作を次々と発表します。
 それらの代表作ともいえるのが1963年に録音されたアルバム「NOW!」(impulse!)です。タイトル通りスティットの当時の音楽表現をそのまま切り取ったアルバム。パーカーから影響を受けたことを認めつつも、「自分自身しか出せない音を打ち出していこう」というポジティブな姿勢がビシビシと伝わってくる絶頂期の作品といって良いでしょう。
 時代が移り変わってもスティットは自身が大切にしている「モダン・ジャズ」、「ビ・バップ」という音楽スタイルを貫き通しました。その心意気が日本全国のジャズファンの心を掴んで離さなかった理由の一つかもしれません。
 実際、70年代後半から80年代、長崎市新大工町でジャズ喫茶「コンボ」を経営していた私の父も、スティットが大好きで店内でよくレコードをかけていたようです。
 実は82年、スティットは演奏ツアーで来崎する予定でした。しかし当時、スティットは既に皮膚がんを患っていたのです。結局、日本ツアーは最初の地、北海道旭川公演で1曲のみを演奏し終わりました。その後、病状が悪化し、長崎公演前日の同年7月22日、彼は天に召されたのです。本当に最後までジャズを愛し、ジャズスピリッツにあふれたアーティストだったと思います。私にとってスティットの存在そのものが「ジャズ」であると感じずにはいられません。
(ジャズピアニスト、長崎市出身)

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