【サンデー美術館】 No.284 「雪舟の仏画展 12月19日まで」

▲観音三十三身像(部分)雪舟等楊[款]

 もくもくと湧き上がる雲間からそそり立つ断崖。一人の男が、《グリコ》のポーズさながら谷底をのぞきこんでいる。少々腰が引けているのも無理はない。足でも滑らせようものなら、奈落の底へ真っ逆さまなのだ。本家《グリコ》はもっと誇らしげに両手を挙げていたように思う。300m(!)以上全力で駆け抜けたゾ的「ヤッター」感に満ち溢れていた。ではこの断崖の上の「ヤッター」は?

 答えは、観世音菩薩が様々なお姿に変身しながら人々を救済することを説いた『法華経』の中にある。この絵はその中の一コマ。「高い山から落とされても観音様を信じれば太陽の如く空中に留まる事ができる。」

 というわけで正解は人を谷底へ投げ落とした極悪人の「ヤッたったー」。ただし、落とされた方は観音様の神通力で空中をプカプカ。だから、この「ヤッたったー」には観音様のお力を目の当たりにした悪人の畏怖の念も交じっている。

 日頃、奥方に奈落の底に落とされては頑張っている貴方。全体図、必見です。

山口県立美術館副館長 河野 通孝

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