関雅義 長崎刑務所所長に聞く 集団作業より個々の教育 第1部 老いと懲役・8完

「取り組みを成功させ『長崎モデル』として全国に広がっていけば」と話す関所長=諫早市小川町、長崎刑務所

 高齢受刑者の増加を受け全国初の専門部署「社会復帰支援部門」を立ち上げ、九州の刑務所から対象者の移送を受けている長崎刑務所(諫早市)。認知症傾向の高齢受刑者に独自の処遇プログラムを施し、再犯防止を模索している。関雅義所長(57)に意義や現状の評価などを聞いた。

-社会復帰支援部門の意義について。
 「拘禁して懲役作業をさせて出所」というのが刑務所の「常識」だったのが、教育を通じて知識や資格習得につなげ、出所後に役立たせるという流れに変わってきている。認知症傾向のある高齢受刑者を集め、作業重視ではなく、認知機能や筋力の低下を防ぐ処遇プログラムを施すことは必要なことと考える。

 -個々の特性に応じた処遇を取り入れているが。
 以前の刑務所は公平性の観点から同じ処遇を施す「集団処遇」がルールだった。だが一律に同じ懲役作業に従事させても、年代や障害の有無などで能力に差が出てくる。できない人に「なぜ、できないのか」と求めるのは酷なこと。個々の特性に応じ「個別処遇」を施すことは意味がある。

 -同部門の現状の評価は。
 職員の意識が変わってきている。最初は色眼鏡で見る職員もいたが、(医療・福祉職の)専門的なスタッフの必要性などの理解が徐々に進んでいる。福祉施設で職員研修にも取り組んでいる。長崎の取り組みは試金石。プログラムを実践する部門ができたことは画期的なことだが、社会に出て役立つか、その結果はまだ見えていない。成功させて長崎モデルとして全国に広がっていけば。

 -罪を繰り返すなど犯罪傾向が進んだ「累犯者」の更生について。
 長崎刑務所の受刑者で多い罪状は覚醒剤や窃盗だが、繰り返してしまう人は社会に戻っても居場所がない人が多い。居場所がないから再び罪を犯して刑務所に戻る悪循環に陥っている。住む場所や仕事など居場所の確保は更生に不可欠だ。

 -受刑者の更生や再犯防止に向けて地域社会に期待することは。
 出所者イコール全てが駄目な人ではない。同部門の受刑者は認知症傾向など基本的に生きる力が弱い人で、社会で一番手を掛けてあげないといけない人たち。立ち直ろうと社会に戻っても、自分の理想と違ったり受け入れてもらえなかったりすると、くじけてしまって悪い方向に流れてしまう。「頑張ろう」「頑張ったね」と認められることで頑張ることができる。きっかけをつくってあげることが必要だと考えている。

【略歴】せき・まさよし 静岡刑務所や東京少年鑑別所、官民協働の喜連川社会復帰促進センター(栃木県さくら市)、旧八王子医療刑務所などで勤務。昨年4月から現職。

  =第1部おわり=

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