仕事と家庭と介護に疲れた妻「夫婦別財布でやってきたけれど私がリタイアしても平気?」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、1人のお子さんをもつ共働きの妻。現在、仕事と家庭と介護の両立で疲弊し、できるだけアーリーリタイアを考えているという相談者。これまで夫婦別財布で家計を運営してきたといいますが、妻だけアーリーリタイアすることは可能でしょうか? FPの秋山芳生氏がお答えします。


仕事・家庭・介護の両立に限界で、アーリーリタイアを希望しています。

5年ごとに契約更新の期限付き正社員です。今後の昇給はなし。責任が増していく役職ですが、定年まで給料据え置き確定で役職手当も付きません。業務量もさることながら、職場の環境と対人ストレスが強く、次のボーナスで住宅ローンを完済するタイミングなので、切り良くアーリーリタイアしたいです。家族は賛成していますが、中途半端に夫婦別財布です。私の現状でFIRE可能か、プロのご意見を伺いたいです。

頑張って住まいを手に入れるところまでは私がやり遂げるので、年金支給までの生活全般と教育費は夫に頑張ってもらい、私がリタイア後に私個人で使うお金や保険料等は今まで通り 私の貯蓄から出していくつもりです。

以下、現況詳細です。長文で失礼致します。どうぞ宜しくお願い致します。

《住宅ローンと家計》

私の収入から住宅ローン返済中。住居メンテ代、火災・災害保険料、固定資産税などのお金を夫が担う。住宅購入は私、家庭と教育にかかるお金は夫、それ以外は各自のお財布から、と大雑把な線引きで、なんとなく中途半端な夫婦別財布のような形で成り立っています。趣味、服飾、勉強、交際費、生命医療保険料は 夫婦各々の収入から各自の判断で使い、貯蓄や資産形成も各自の裁量で。年に一度お互いに確認し合いますが、投資内容や額には干渉しないルール。

《加入保険について》

私は、死亡保険未加入、月額1万円の医療保険に加入しています。大きな病気をしたことがなく、払い損に感じています。夫も私と同じような額と内容の医療保険に加入しており、さらに月額1万円位で死亡保険1,000万円の掛け捨てタイプを契約しています。

《介護》

今は月3回ペースで私の実家に通っていますが、両親が高齢で危ない場面が多く、もう少し頻繁に通いたいです。親は経済的には不自由はありませんが、公的・民間の介護支援を受けづらい状況です。

《私の年間支出》

私の年間の個人支出は、保険12万円、趣味5万円、勉強40万円、交際費10万円、医療・服飾・美容30万円。リタイアすると勉強と交際費を1/2~1/3程度に減らせます。医療・服飾・美容は内訳の半分以上が、怪我の再発防止のため着用している医療装具(加入保険・健康保険適用外)で、買い替えや調整が必要なため減額は難しいです。

《私の貯蓄投資内容》

投資は、国内株式とインデックス投資信託。国内株式は、JPX400銘柄を短期売買しつつ、配当利回り2.5~4%の銘柄を配当狙いで売買を繰り返し、スタート時~現在で通算するとプラス20%位の利益。優良株を長期保有するスタイルに変えたい。インデックス投資信託は、つみたてNISA上限までと、別途 つみたて購入を自動設定中。

【相談者プロフィール】

・相談者:女性、48歳、会社員。月の手取り35万円。ボーナス手取り150万円。5年期限付き契約更新の正社員。

・夫:47歳、会社員、月の手取り50万円。ボーナス手取り150万円。57歳役職定年で年収3割減、元気な限り働きたい意欲あり。

・子ども:23歳(社会人、別居)、13歳(公立中学1年。大学へ進学希望、公立私立、文系理系の具体的な進路未定)

・住居の形態:持ち家(戸建て・東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:85万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:300万円

・毎月の世帯の支出の目安:22万8,000円

【毎月の支出の内訳(夫婦の個人支出は除く)】

・住居費:8万円(住居メンテ代、火災・災害保険料、固定資産税などの年額の平均)

・食費:7万円

・水道光熱費:3万円

・教育費:2万円

・通信費:8,000円

・その他:2万円

【資産状況】

・現在の貯金総額(投資分は含まない):夫2,000万円、妻3,700万円

・現在の投資総額:夫500万円、妻600万円

・現在の負債総額:60万円(住宅ローン残債)

・退職金:

妻/今の契約中で550万円、65歳で1,500万円

夫/65歳定年で退職金は2,200万円くらい

・年金:夫婦合わせて300万円くらい(最新の定期便より)

※編集部注 相談内容は一部割愛させていただきました。

秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。仕事場での人間関係の問題や、親の介護の大変さから早期にリタイアできないかというご相談です。詳しいライフプランについては夫単独の支出がわからないため、正しく組むことはできません。しかし、教育費や自宅にかかる費用を夫が負担するという前提で、その他の支出も「仮にこういう条件だったら」という想定のシミュレーションを作り早期リタイアの可能性を考えていきたいと思います。

まずは、家計の費目からシミュレーションの前提条件を整理

まずは、家計の費目からシミュレーションの前提条件を整理しましょう。

【住宅費】
月8万円(年96万円)の住宅費用ですが、住宅ローンの返済額や固定資産税などの内訳がわからなかったので、住宅ローン72万円/年、火災保険など2万円/年、固定資産税14万円/年、その他修繕費用(積立含む)8万円/年と想定して計算します。よって、住宅ローンの返済はこの1年で終了するものとします。また修繕は、定期的な外壁や、水回り、壁紙、床などのメンテナンスがかかると思いますが、定期的に50万円ほどの追加修繕費と、今から25年後に500万円の大型修繕が発生するようにしています。

【教育費】
下のお子さんの進路はまだ決まっていないようなので、最も進学比率の多い文系私立大学に通う想定にしています。また、高校受験、大学受験の年には、塾代として50万円ほどを上乗せしています。大学は自宅からの通学可能外の可能性もあるため、下宿代も想定しています。

【夫婦それぞれの年間支出】
夫の年間支出がわからなかったため、ご相談者様の支出を単純に2倍にしています。ご相談者さまの趣味・勉強などの費用は、いただいた情報をもとに下げています。

【介護費用】
現在は親の介護のことを考えていらっしゃいますが、将来はご自身の介護費用も必要になってきます。夫と二人分で1,000万円を予算として入れています。

【生活費】
インフレにより物価上昇が年間0.75%ある前提にしているので、食費などの生活費が少しずつ上昇するように設計しています。また、65歳以降はアクティブさも少なくなると思いますので8掛けに下げた生活費にしています。

【年金】
現在の水準の年金より給付額は少なくなると想定し、約8掛けで計算しています。税金や社会保険料を引くと手取りで277万円/年としています。

【資産運用】
夫婦ともに月に3.3万円のつみたてNISAへ投資し、60歳までは3%の複利運用、60歳以降は1%で運用する前提でシミュレーションしています。現在の投資については、買ったり売ったりしているというニュアンスを感じます。投資の本質を理解して、投資対象をグローバル分散投資に切り替えていくことが重要です。また、運用資産は買ったら持ち続ける「バイ アンド ホールド」が基本になります。少し株価が上がったから売り、下がったから買い、また下がったから買い増し、怖くなって売る、ということを繰り返していると、市場平均に連動した伸びと比べて大幅に機会損失することになりかねません。一度買ったら持ち続けられて信頼できる投資対象を選べるように勉強すると良いと思います。

シミュレーションの結果は、妻のアーリーリタイアは可能?

結論としては、ご相談者さんがアーリーリタイアすることは全く問題がなさそうです。要因は大きく以下の3つです。

・夫の年収が高いこと
・夫の退職金が2,000万円を超える想定であること
・住宅ローンの支払いがもうすぐ終わり、その他生活費も比較的抑えられていること

夫の収入が高いので、ご相談者さまが仕事を辞めても問題ないでしょう。もうすぐ住宅ローンを払い終えるので、固定費が大幅に削減された家計になると思います。

資産が十分にあるので、生命保険は夫の死亡保険以外は解約しても問題ない

生命保険についてですが、夫が入っている掛け捨ての死亡保険以外は不要と思われます。医療費は実費の3割負担で済むことや、高額療養費による支払い上限もあるのでそこまでかかりません。医療保険の場合は、「入院したら」「手術したら」「放射線治療の場合」「がんになったら」など、保険がおりる条件に該当しないと支払われません。例えばがん保険でいくら備えても、「がんではなく、脳梗塞になった。手術はしないし、自宅療養になった」としたらほとんど保険はおりません。つまり用途が限定されてしまうのでいざという時に使えない可能性もあるということです。現在、すでに数千万円の資産をお持ちですので、医療費については十分貯蓄から支払えます。怖がらずに解約されると良いと思います。

家族全体のお金として戦略的にプランを練ることが大切

既に資産があり、夫の収入が高いのに不安がある原因は、ライフプランを組んで“いついくらかかるか”の具体的なイメージが持てていないことと、夫婦別財布であることだと思います。少なくとも年に1度資産を確認し合う習慣は非常に有益なものだと思いますのでぜひ続けていただければと思います。

また「これは私のお金、これはあなたのお金」と分けずに、家族全体のお金として、夫婦の目線を揃えて、どのように増やし、どのように使うのかが戦略的に共有できるようになると、非常に強い家計になります。夫婦が自分のことを考え、「あなた・わたし」とお互い向き合うのではなく、「私たち」が、共に老後の生活をどのようにしていくのか、そのために今何をするべきかなどの価値観も含めて話し合い、共有できるようになると不安も減るように思います。強い家計は、「家の計画」を家族で共有できるかにかかっていると思います。どこか、参考になれば幸いです。

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