長崎地裁・家裁所長 大久保正道さん(61)に聞く 「身近で親しみやすく」

 〈4月に長崎地裁・家裁所長に就任。今年で導入から13年目を迎えた裁判員制度の評価や裁判を巡る昨今の変化などについて聞いた〉

大久保正道さん

 -裁判員制度の評価は。
 2009年の制度導入から今年8月までに、長崎地裁では計78件の裁判員裁判が開かれ、約650人の県民が参加した。理解と協力をいただき安定的に運用できていることに感謝申し上げる。
 裁判に国民の視点や感覚が反映され、裁判官の専門性と良識が影響を与え合い、以前より分かりやすく多角的になった。昨年度の参加者アンケートでは「非常に良い」「良い」経験だったとの回答が全体の96.7%に上った。

 -裁判員の精神的、物理的負担も課題になっている。
 裁判員の精神的負担を考慮し、公判証拠の厳選のほか、参加者の体調変化を見過ごさないようコミュニケーションに努めている。辞退の申し出などがあれば個別の判断で適切に対応する。また、メンタルヘルスサポート窓口も設け、周知している。
 本県は離島が多く、陸路でも長崎市まで時間がかかる場所もある。余裕を持って参加できるようホテルに連泊してもらうなど対応している。

 -法制審議会は昨年、懲役刑と禁錮刑を新自由刑(仮称)に一本化する刑法改正の要綱案を示した。
 近年の犯罪情勢や再犯防止の重要性を受けての改正になるが、現時点で裁判所として具体的に申し上げることはない。これまでも被告人の更生は十分考慮した上で判決を下してきた。刑事の裁判官が改正の流れを踏まえ、何が重要か判断することになる。時代の流れを感じ取りながら仕事をしなければならない。

 -長崎地裁でも民事訴訟でウェブ会議が導入され、全国的に裁判のIT化が進む。
 ウェブ会議の利用件数が増加している。将来的には裁判所に来庁してもらう負担が減っていくと思われる。全国的には刑事でも導入が検討され、家事調停での導入も開始。裁判がますます国民にとって身近になる。一方、ITを利用できない人のための手続きを残す動きもある。

 -裁判所職員のやりがいは。県民にとってどんな裁判所にしたいか。
 裁判所の役割は、法的紛争に苦しむ当事者を紛争から解放して苦しみから救うことにある。病を抱えた人が病院に行くのに似ている。ただ、判決を下すことは常に一方から感謝され、一方から恨まれることが宿命。やりがいであり、怖さでもある。
 所長は職員がやりがいを持って働けるよう環境を整え、社会に対しては情報を発信し国民に(司法を)身近にするのが役割。もし法的紛争に巻き込まれた時、迷わず行こうと思える身近で親しみやすい裁判所を目指したい。

 【略歴】おおくぼ・まさみち 岩手県出身。早稲田大法学部卒。1986年に東京地裁判事補に任官。東京高裁判事などを歴任。前職は福岡高裁那覇支部長。趣味は昆虫採集。座右の銘は「人間ならば誰にでも現実の全てが見える訳ではない。多くの人が見たいと欲する現実しか見ていない」


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