長崎この1年2021<3> 記録的大雨で5人死亡 避難判断、経験通用せず

8月に小地獄地区を襲った土砂崩れの跡。むき出しになった山肌が、土砂の流量を物語る=12月14日、雲仙市小浜町雲仙

 8月に長崎県内を記録的大雨が襲った。13日未明、雲仙温泉街(雲仙市)の小地獄地区で土砂崩れが起き、家屋2棟が押し流されて1家族3人が犠牲になった。14日には西海市の用水路で70代の女性2人が亡くなった。
 近年、大雨災害が頻発し、県内でも「数十年に1度の規模」が基準の大雨特別警報が4年連続で発令。経験に頼った避難の判断が通用しなくなっている。
 小地獄地区で被災した「雲仙温泉 青雲荘」の従業員、亀山憲行さん(51)は、そのことを身をもって知った。土砂崩れ発生後、消防署員に伴われて社宅から避難する際、土砂に足を踏み入れてしまい胸まで埋まった。「1人で避難していたら、死んでいたんじゃないか」。当時の恐怖に体を震わせる。
 雲仙岳では降り始めの8月11日午前5時から、土砂崩れ発生の13日午前4時までの降水量は670ミリ。8月1カ月平均の2倍超の雨が降っていた。
 雲仙市は12日午後4時に避難指示を発令。13日午前3時55分ごろ、小地獄地区で土砂崩れが発生した。家屋を飲み込んだ土砂は、さらに下手の青雲荘まで到達。青雲荘より山側にあった社宅1階の空き室にも土砂が流入していた。
 社宅2階で寝ていた亀山さんは聞いたことがないようなごう音で目を覚ました。電灯がつかず「すぐ近くに落雷した」と思った。玄関のドアを開けると、電柱の変圧器が目の前の道路に落ち火花を上げていた。
 安否確認に訪れた消防署員に「土砂崩れが起きた。さらに崩れる危険があるので避難を」と促された。署員に懐中電灯で足元を照らしてもらったが暗闇と大雨で視界は悪く、青雲荘に通じる階段を下る途中、押し寄せていた土砂にはまった。
 「歩き慣れた道を見誤るとは。気が動転していた。夜中の災害は本当に怖い」と振り返る。同地区で約50年前にも土砂災害があったと聞いていたが、「社宅に6年間住んでいて危険を感じたことはなく、避難指示を聞き流してしまった」。経験に頼る危うさを痛感している。
 行政がどんなに避難を呼び掛けても限界があり、最終的な判断は住民に委ねられる。同市は今回の土砂災害を受け「自治会ごとに住民で声を掛け合い、早めの安全確保をあらためて徹底してもらう必要がある」として、自主防災組織の結成要請を強化。242自治会のうち自主防災組織は97にとどまり、結成促進は喫緊の課題だ。


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