政治決断を

 賛否が割れる問題、法令に定めがない問題について政治家が判断を下すのを「政治決断」と呼ぶ。この言葉の一般的な印象は何だろう。「腹の据わった英断」だろうか▲過去の例を見ると、ひとえに英断というよりも「何か得るもの」あってこその決断に思える。2年前、安倍晋三首相が元ハンセン病患者の家族への賠償を受け入れたのは参院選の真っただ中で、この人一流の演出ともいわれた▲今年7月、時の菅義偉首相が広島原爆の「黒い雨」訴訟で上告を断念した。期限が迫る衆院選に向けて政権の株を上げるという「得るもの」もあったとみられる▲その時の首相談話にある。広島高裁が黒い雨などの健康影響を〈科学的な推計によらず、広く認めるべきとした点は…容認できるものではありません〉。「得るもの」をここは優先するが、納得はしていない…と、本音がにじむようでもある▲談話では「黒い雨」訴訟の原告と「同じような事情」の人々も被爆者認定を検討するとした。それなのに厚生労働省は、長崎原爆に遭いながら被爆者と認められない「被爆体験者」はまた別だ、と線を引く▲黒い雨や灰が降ったという被爆体験者の証言ならば数多くある。演出もなく「何か得るもの」もなしに、苦しむ人々に手を差し伸べる。それが政治決断に他ならない。(徹)

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