歩く

 陸上競技の競歩は歩く速さを競う種目だ。男子50キロの世界記録は3時間32分33秒で、時速に換算すると14.1キロ。もちろん、闇雲に先を急ぐわけにはいかない。最も基本的なルールは〈両足が一度に地面から離れてはならない〉こと▲「歩」は両足の足跡をかたどって生まれた象形文字とされている。前で「止」まっている片方の足を、もう片方が追い抜くように「少」し進んで一歩前に。競歩の歩形規則との符合がしみじみ興味深い▲12月のはじめ、長崎新聞文化章の贈呈式を紹介した記事の中で、この漢字が〈「止」まると「少し」でできているのは不思議だ〉と書いた。受章いただいた皆さんの〈遠くて、止まらない歩み〉を思ったのだったが▲終わりのない研究の道も、どこまでも高みを目指す厳しい鍛錬も「小さな一歩から始まって、一歩一歩の積み重ねでできていますよ」…読者のお一人から、とても穏やかな調子の“反論”をいただいた。お便りはこう続いている。「時々、少し止まって振り返ると歩いてきた道の長さが実感できます」▲2021年もきょう1日限り。振り向いたら“1月の自分”がすぐ後ろにいそうなわが身は別として、世の中は少しずつでも前に進んでこられただろうか▲今年も1年間お世話になりました。皆さま、よいお年を。(智)

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