核兵器禁止条約発効から1年 3月に締約国会議「枠組み」づくりへ 日本政府、慎重姿勢崩さず

核兵器禁止条約を巡る動き

 核兵器の開発から保有、使用、威嚇などを全面的に禁止する核兵器禁止条約が発効し、22日で1年を迎える。核廃絶を目指す歴史的な条約が動き始めたものの、核保有国はいまだ参加していない。批准国は発効以降、期待されたほどは増えておらず、条約の実効性が懸念されている。3月には第1回締約国会議を控える中、条約の課題と今後の見通しをまとめた。

 ■58の国・地域

 「核兵器の使用によって引き起こされる破局的な人道上の結末を深く懸念」。核兵器禁止条約の前文では、核兵器の非人道性を強く警告する。さらに「ヒバクシャが受けた、受け入れがたい苦痛に留意」と明記。核兵器廃絶を訴えてきた被爆者らの努力にも言及した。
 条約は2017年7月に122カ国・地域が賛成し国連で採択。20年10月には批准した国・地域が、条約発効に必要な50に到達し、21年1月22日に発効した。
 同年12月15日に西アフリカ・ギニアビサウが加わり、批准した国・地域は58となった。ただ、122カ国・地域が条約に賛成したにもかかわらず、発効後は批准国が思うほどは増えていない。20年から世界中で新型コロナウイルスが流行。各国で感染対策や経済施策が優先されている影響もあると指摘する専門家もいる。発効から時間が経過するにつれ、関心の低下も危惧され、条約参加への機運をもう一度喚起する必要がありそうだ。

 ■期間は3日間

 条約では、発効から1年以内に第1回締約国会議を開くと明記。締約国会議はその後、2年に1度開くと規定している。また発効から5年で、条約の運用や目標達成の進展状況に関する再検討会議を開催する。
 第1回締約国会議は22年3月22日から3日間、オーストリア・ウィーンで開かれる。新型コロナの感染拡大により、当初の同年1月から延期。期間は3日間と短いが、コロナ禍であっても対面での開催を実現させるため、調整が進められたとみられる。
 初回のテーマは、条約の「枠組みづくり」が想定される。条文に出てくる用語の解釈や定義づけなど、細かな点も締約国間で確認しておく必要がある。
 例えば、「核実験」にしても、禁止するのは爆発を伴う実験だけなのか、臨界前核実験なども含めるのかどうか。また条約に救済が盛り込まれた「核被害者」についても同じことが言える。被爆者健康手帳を持つ被爆者や核実験の被害者、さらにはウラン鉱山の放射能被害に遭った人など、線引きが求められる。
 3日間の議論で結論まで導くことは難しい。2年後の会議までの道筋を決めることも重要となりそうだ。

 ■NATOから

 会議には締約国以外の国や非政府組織(NGO)など関係機関もオブザーバーとして、参加できる。21年には、米欧の軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるドイツやノルウェーがオブザーバー参加する方針を表明。波紋を広げ、NATO側はこれをけん制する動きを見せている。ドイツに関しては、新政権樹立に伴う方針転換で、影響は限定的との見方もある。
 一方、米国の「核の傘」に頼る日本政府は、当初から条約に後ろ向きな姿勢を示している。被爆地広島選出の岸田文雄首相が就任したが、従来の政府方針に終始している。
 21年11月には、田上富久長崎市長と松井一実広島市長が官邸を訪れ、締約国会議へのオブザーバー参加を直接要請。岸田首相は「米国との信頼関係を構築した後、条約にどう向き合うか考える。手順が重要だ」と述べるにとどめ、慎重な姿勢を崩さなかった。
 被爆地長崎からは、同年8月9日の「長崎原爆の日」に、田上市長が平和祈念式典で読み上げる平和宣言でも核兵器禁止条約への署名・批准と締約国会議へのオブザーバー参加を要望。長崎市議会も同年12月に署名・批准を求める意見書を可決している。
 被爆者の平均年齢は83歳を超えている。被爆者の願いが結実した条約を、実効性の高いものとするためにも被爆地からの訴えを続けなければならない。

核兵器禁止条約が発効し、被爆者らは集会で核廃絶への決意を新たにした=2021年1月22日、長崎市の平和公園

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