2022年は円安ドル高にブレーキ?米利上げ、新型コロナ、中間選挙、為替相場を左右するイベントを考察

主要な金融商品の2022年相場について専門家に聞く年始特別連載、第3回目は「為替」です。 昨年年始の相場展望ではドル円相場は円安トレンドと予想し、概ねその通りの展開でした。今年はどうなるのか、昨年に引き続き大和証券の石月幸雄・シニア為替ストラテジストに解説いただきます。


米利上げ後は円高が進行か

為替市場において、今年最大のテーマがFRB(連邦準備理事会)の利上げ開始時期とそのペースということに異論はないでしょう。すでに、インフレの進行に対してFRBの対応が後手に回っていることは否定できませんが、遅まきながらインフレ退治に本腰を入れる方針であることは確かなようです。

2022年は遅くとも6月に利上げに着手し、以降9月、12月と3カ月毎に計3回を基本シナリオとしたいと思います。年後半、名目のインフレ率がピークアウトする可能性も相応に考えられますが、失業率の低下および賃金上昇率の高止まりが続く限り、金融引き締めの手を緩めるわけにはいかないでしょう。

なお、利上げ後は、FRBのバランスシートの縮小の着手が市場の関心を呼びそうですが、早くても2023年まで待つとみられます。

FRBが利上げを開始すればドル高が進行するだろうと思う方もいると思いますが、過去の利上げ局面をみると逆にドルが売られています。例えば、最も新しいところで2015年末からの米国の利上げサイクルでは確かに円高ドル安トレンドが見て取れます。1999年からの利上げサイクルも然りです。

これは、利上げ局面の継続によってその先の景気減速あるいは後退が意識されるからと考えられます。そもそも利上げは景気を冷やすための手段であるため当然です。一般に、長短金利の逆転(逆イールド)は景気後退のサインと見なされていますが、そこまで行かなくても、米国の長短金利差縮小はドル安を誘発しやすくなります。

円の割安感は何故解消されないのか?

米国の高インフレは金融引き締めの加速を促すとして、現状はドル買い材料視されています。ただし、本来は物価上昇分だけ貨幣価値が棄損するため、ドル円相場であれば、円高ドル安材料となるはずです。

日本と米国を比較した場合、歴史的に見ても米国のほうが、物価上昇率が高く、ドル円の購買力平価は右肩下がり(円高ドル安方向)で推移してきました。特に、コロナショック以降は日米の物価格差が拡大する中で、購買力平価は円高ドル安方向への動きが加速しています。一方で、実際のドル円相場は購買力平価に逆行する形で、円安ドル高に振れています。これが「円は割安」と評される所以です。

とは言え、円の割安感の解消はそう容易ではないでしょう。鍵を握るのは実需マネー、つまりは日本の貿易収支です。世界が「脱炭素」に舵を切り、もはや後戻りできない状況であることを鑑みると、化石燃料産業への投資は今後もじり貧で推移するでしょう。数年間は需給バランスの崩れから原油価格の高止まりが続くことが予想されます。結果、「脱炭素」の加速は原油高を通じた日本の貿易収支悪化を招き、円への大きな逆風となるとみられます。

最大の不透明要因はやはり新型コロナ

最後に、2022年のドル円相場の基本シナリオのまとめです。足許の新型コロナウイルス変異型オミクロン株に対する警戒が年初も続く可能性がありますが、マイナスの影響は長期化しないものと思われます。米国の金融引き締め観測を背景にドルが強含み、4~6月期には一旦120円に接近する場面もあるでしょう。

ただし、FRBが6月に利上げを開始して以降は過去の経験則通り、ドル高基調にかげりが見える展開が想定されます。また、年終盤は米国の中間選挙で民主党が大敗し、バイデン政権がレームダック化する可能性も高いとみられます。現在の大統領、議会両院を民主党が占める「トリプルブルー」を維持するのはかなり困難で、年末にかけては政治リスクがドルの重荷となるでしょう。一方で、資源価格の高止まりが円安を支援するため、年末時点で1ドル=114円付近での着地を見込みます。

他方、最大の不透明要因はやはり新型コロナウイルスでしょう。再び感染爆発が起きる可能性もゼロではなく、感染動向次第でFRBの金融政策が影響を受けるのは必至です。また、このような状況下ではエネルギーの需要減少が連想され、資源価格が下落することが濃厚と言えます。米国の金融政策以上に円高リスクを高めることになりそうです。

もっとも、逆にむしろコロナ禍が収束する可能性も相応に高いとみられます。新型コロナウイルスが消滅するのではなく、弱毒化し、特別視されなくなることが想定されるシナリオです。オミクロン株にそのようなポテンシャルがあるのかどうかは分かりませんが、ウイルスの変化とは別に、経口治療薬(飲み薬)の普及で近い将来、従来の風邪やインフルエンザと大差のない疾病という見方が定着してもおかしくはないでしょう。

その場合、世界的に金融政策の正常化が加速することが想定されます。それが円安を支援するケースと、リスク資産売りに拍車をかけ、却って円買いを招くケース、両方のパターンが考えられ、一筋縄ではいかないでしょう。

<文:シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>

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