正月の風習

 〈子どものコマ廻(まわ)しはいまもさかんだが…〉と文中にあって、時の流れを感じさせる。郷土史家の故永島正一さんの著書「長崎ものしり手帳」(葦書房、1997年復刊)を開くと、遠い昔日の光景が目の前にふっと現れるような気がする▲佐世保独楽(こま)がよく知られるが、こま回しの掛け声は「いきなが しょうもん しょうくらべ…」とはやす、と紹介されている。漢字で書くと「息長 勝問 勝競べ」で、その意味は「どれくらい長く回せるか勝負しよう」▲筆者も少年の頃、正月のこま回しに熱中し、こまをぶつけ合う“勝負の瞬間”をよく覚えている。正月といえば…と、皆さんの記憶にある習わしは何だろう▲永島さんの本ではほかにも、具材たっぷりの「長崎雑煮」、丸めた餅を柱に打ち付ける「柱餅」…と、正月の風習に限っても実に詳しく並べられている▲特別なメニューや行事で気持ちを一新する。そんな古くからの習わしの多くは薄らいでいるが、年始の「特別な何か」ならばきっと、家庭ごとに、人ごとにあるものだろう。例えば、うちだけの正月料理、年に一度の家族写真…▲年末年始の帰省がかなわず、「特別な何か」がないまま今日が仕事始めという人もきっと多い。いずれ一足遅れの帰省も旅もできますよう。再会の願いがかないますよう。(徹)

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