絶対王者の引退

 2008年夏、北京で19歳の若者が躍動した。体操の団体、個人総合で二つの銀メダルを獲得。後に「絶対王者」と呼ばれる内村航平選手=諫早市出身=が五輪デビューを飾った▲春先までは「種目別で五輪に出られたらいい」と話していた。そんな大学2年生が世界最高の舞台で日々成長。演技をするたびに歓声は大きくなり、表情も自信に満ちていった。現地で取材をしながら「こうやってスターは生まれるんだな」と納得させられたことを覚えている▲以降、体操界の中心には「ウチムラ」がいた。個人総合で五輪2連覇、世界選手権6連覇-。こだわり続けた「美しい体操」で世界を魅了した▲体操に無関係な質問など、過熱するメディアに対して不機嫌そうな態度をとっていた時期もある。でも、数年前から「体操をメジャーにしたい。それが僕の使命」と言うようになっていた彼は、以前の自分についても語る人に変わった▲「あのころの自分は嫌い。体操さえやっていればいいと思っていた。過去に戻れたら直したい」。そこには体操界のエースから、真のリーダーに成長した姿があった▲33歳になった絶対王者が引退を表明した。会見の予定は14日。一時代を築いたアスリートはどんな言葉を残してくれるだろう。楽しみであり、寂しくもある。(城)

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