ウィシュマさんビデオ詳報【上】入管が見せたもの、隠したもの

個室の監視カメラには、どんな映像が記録されていたのか―。名古屋出入国在留管理局でスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が収容中に亡くなる直前のビデオ映像。それを見た衆参両院の野党議員7人が21日、報告会を参院議員会館で開いた。「救急搬送していればウィシュマさんの命は助かったはず」「これは入管による緩慢な殺人だ」などと入管の対応を批判した。7人の報告を重ね合わせれば、より実態に近づけるのではとの思いから、報告会の詳細をお伝えする。

ウッシュマさんの遺影(社民党のHPから)

◆うめき声を発し続けているのに入管は「朝まで待て」

入国管理庁は昨年2月22日からウィシュマさんが死亡した3月6日まで、13日間の約295時間にわたるビデオ映像を約6時間半に編集。昨年12月下旬に衆参の法務委員会に開示した。

「2月24日の午前4時から4時59分までの映像にすごい真実がある」―。衆院議員の階猛氏(立憲)は冒頭、そう指摘して話を始めた。

「この59分間にウィシュマさんは何度もうめき声をあげています。もう、断末魔の声です。私も両親を亡くすときに看病したんですが、近くの病室で患者が亡くなる間際、悲鳴というか、うめき声をあげていたんです。そうした声がウィシュマさんから発せられ続けている。にもかかわらず、入管の職員は『(朝まで)あと4時間待って』と言って放置している。入管施設で預かっている人に異常があれば、適切な対応を取らなくてはいけないはず。全く見ず知らずの人であっても、そうしたうめき声を発している人がいたら助けるだろう。何もしないことに非常な衝撃を受けました」

「この59分間のウィシュマさんの言葉で印象に残っているのは、インターフォンに『担当さん』と言って、『口から血、鼻から血』というようなことを言ってました。映像で血は確認できなかったのですが、相当苦しそうなのです。尋常ではないうめき声が続いていました。単に痛みとか苦しみだけではなく、怯えとか絶望というものが交じっているような声でした。しばらくして、部屋に来た職員が(ウィシュマさんを)見て、声を聞いてあわてて背中をさすったりしていたんですが、(ウィシュマさんは)何か言葉を発しようとするんだけれども言葉にならない。ようやく発せられたのは、『私、死ぬ』という言葉。もう脱力状態でうめき声も出せないくらい力尽きている感じでした」

「その脱力状態にあるウィシュマさんを体が倒れないようにベッドの端に座らせたまま、職員はいなくなった。この時を起点にして、ウィシュマさんは『この人たちには何を言っても無駄なんだ』と、生きる気力を失ったかのように見えました。その後は、職員とちゃんとした会話が行われていなかったような気がする。形式的な会話はあったとしても、ウィシュマさんが何か意志を持ってきちんと話しているということはなかったような気がします」

報告会で発言する階猛氏(撮影:本間誠也)

◆「入管は書類を改ざんしているのではないか」

ウィシュマさんの死をめぐり、階氏は入管による書類の改ざんを疑っている。

「そういう中で3月3日に入管の看護師がウィシュマさんといろいろやり取りしてるんですね。看護師の日誌では、『明日病院に行くんだけど、そこでこういうことを言います』とか、やり取りしている。でも、その部分のビデオは私たちは見ていません。疑問に思うのは、3月3日の状況でそんな事細かなやり取りができていたのか、と。『結婚したい』とか、そんなことも雑談の中で話してるんですけども、本当にそんなことがあったのか。疑問なんです。3月3日の看護師との会話以外の部分は見てるんですけども、あたかも『3月3日の時点では全く死ぬ気配はなかった』ということを言わんがためにそうした記述が日誌にあるような気もして。その部分のビデオを見て、日誌とは違うことが明らかになれば改ざんになる。見せていただきたい、と強く入管庁に言っています」

「改ざんがあったにせよ、なかったにせよ、隠蔽があったことは間違いない、ビデオと(昨年8月に入管庁が公表した)最終報告書の内容は大きくズレてます。最終報告書には2月24日の朝4時からの部分はたった1行で、しかもかっこ書きで、『体調不良を訴えた』という一言だけです。この最終報告書は実態を隠していると思っています」

◆「粗末に扱っていた人間がヤバくなると、急に優しくなる」

衆院議員・鎌田さゆり氏(立憲)は入管職員の対応に強い疑問を投げかけた。

「(昨年)1月以降、ウィシュマさんは腎機能障害、肝機能障害に加え、脱水障害と強い飢餓状態に陥っていました。なのに、そういう状態で2月24日からリハビリが始まっているんです。体重が20キロ以上落ちて体力がない人間にリハビリを行うということは、ますます弱らせていくことになる。入管にそんなマニュアルがあったのなら即刻変えなければいけないし、ビデオを見て感じたことは、職員たちはウィシュマさんが死ぬその時を、ただ待っているかのようにしか見えませんでした」

「私は心理学の専門家ではありませんが、人はそれまで粗末に扱っていた人が『本当にこの人、危ない、ヤバい状態かも』と思った途端、急に優しく声を掛けたりするような心理になることがあるのでは、と。職員の状態はまさにそれでした。ウィシュマさんが一切声を発せられなくなって、今死んでもおかしくない状態になった途端に『頑張ろうね』『大丈夫だよ』『元気出していこう』って。今さら何でそんな声を掛けてるの、という思いで私はビデオを見ました」

鎌田さゆり氏(撮影:本間誠也)

◆「見せたくない映像は編集でつながない。隠す」

民放テレビの元ニュースキャスターの参院議員・真山勇一氏(立憲)は、ビデオは入管によって「編集」された点を強調した。

「ビデオを見た感想を一言で言えば、『ひどい』『あり得ない』。そういう思いです。見せなかった理由がよく分かりました。しかも6時間半に編集したビデオなんですね。当局側が編集した映像なんです。私はテレビで仕事をしていましたから、編集の大事さが分かっています。映像は(視聴者に与える)印象が強い。私たちは視聴者に見せたいものをつないで編集するんです。見せたくないものはつながない。隠す。階議員が話していたように、私たちが見たいものはまだ隠れてるのではないか。まだきっと、とんでもないものが隠されているのではないか」

「(ビデオの)最初のころ、ウィシュマさんは職員と話をしていました。最後の2日、ほとんど何も言わずにベッドに横たわったまま。声を掛けても何も反応しない。それに向かって職員は声を掛けていたのかもしれませんが、呆然と見てるだけのような感じでした。何もやらない。そしてウィシュマさんは最期を迎えてしまう。救急車で運べば助かったんじゃないか。放置していたということは、間接的な殺人ではないか、とさえ感じました、入管の仕組みを変えなければまた同じことが起きてしまう。ウィシュマさんに対する最大の恩返しは、入管の仕組みを変えることだと思っています」

ここまでで3人の議員が報告を終えた。いずれの内容も胸が締め付けられるような内容である。報告会の後半では、さらに重い内容が示された。

『ウィシュマさんビデオ詳報【下】妹のポールニマさん「日本の全国民に見てほしい」』(フロントラインプレス)
『なぜこんな冷酷なことができるのか? ウィシュマさんの死と入管 指宿昭一弁護士語る』(フロントラインプレス)

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